無垢を強いられた子
病室は未だに慣れない。
昼夜問わず白い光景はある意味目が悪く、目に優しい色にすればいいのにと考えた事がある。
ただ、実際にそれを実行すると徹底した緑のレイアウトな部屋になって逆に気持ち悪くなりそうだったので、結局はこの白い部屋がベストという事になる。
つまりは、どう転んでも僕は病室が好きになれないと言う事だ。
看護師としては、なかなか致命的だと思う。
だが、患者の命に関わる仕事をしている身としてそんな愚痴を漏らすつもりはない。
僕は今日も今日とて、患者の身の周りの世話をせっせとこなさなければならないのだから。
『看護師さん』
ふいに、食器の片付けをしていた僕の耳元から声がした。
この声が不意打ちのように響く度に、僕はピクリと体を震わせる。
はっきり言って、心臓に悪い。
「なんだい?」
なるたけ手際良く片付けを済ませながら、話し相手の顔も見ずに言葉を投げかける。
僕の言葉は、一体どのように変換されて伝わっているんだろう。よく気になったりする事はあったので、一度聞いてみたらどれもあんまり変わらないように思えた。
人とチャオとでは、ニュアンスの感じ取り方が違うのかな。
『寂しい』
――また、この言葉だ。
僕はまとめ終わった食器をワゴンに置いて、その子の顔を見た。
無垢なコドモチャオの顔が、僕の顔をじっと見つめている。
今の僕は、どんな表情をしているんだろう。この子を怖がらせるような顔でもしているのかもしれない。僕に優しい表情を作るなんて芸当はできないから。
だから、この子が寂しいと言う度に僕は背筋に冷たいものが走る。やってしまったかなと思って顔を窺っても、僕にはその内情を読み取る事ができない。
僕は、その子の頭を撫でた。
「寂しくないよ」
慣れない笑顔を無理に作って、ちぐはぐな表情を見せる。
「僕がついてる」
その日僕は、黙ってこの子を連れだした。