序章 其ノ一
吹き荒れるブリザード。
視界は辺り一面白色に染められて何も見えない。
所々に生えている木々、転がっている何かの頭蓋骨。
お世辞にも活気・・・いや生気溢れた土地とはいえない。
無論「光」という単語の意味さえ皆忘れている
朝なのか夜なのかも分からない。
これはそんな世界を歩いていく「一人と一匹」の冒険の物語である・・・
【PEACE PIECE】
周囲の景色と同じ色のコートを纏った人物。
その横には小さな生き物が一匹飛んでいた。
小さな翼を忙しそうに羽ばたかせながら、まるでその人物を導くかのように前に移動する・・・
「なぁ・・・・方角はどっちだ?」
その問いに浮かぶ生き物は頭上に?マークを作り出す。
そしてしばらくした後にそのマークが!マークに切り替わった。
「おっ!」
その反応を見て男の気分が盛り上がったのも束の間。
指し示した方向は彼・・・つまり今まで歩いてきた方だ。
「おい」
登山用のサングラスを装着した顔で生き物に問いかける。
しかしこの状況に動じることなく地面に積もった雪をいじっては・・・
「う~?」
―と気の抜けた返事をする生き物。
常人なら数十分でくたばる様な所に好きでいるわけではない。
最悪死の恐れもあるブリザードを渡ってまで来なければならない重要な仕事があるのだが・・・
「なら・・・今日もかまくらで一夜を過ごす!」
「ん!」
お調子者である彼には何の意味もない。
おまけに相棒である生き物もあれでは尚更だ。
そんな重要な任務の事を尻目に置いて黙々とかまくらを製作する一組。
材料である雪も豊富で、しかも今回が初めてというわけではない。
あっという間に形は出来上がった。
しかしなぜか頭を斜めに傾げる男。
横の生き物もどこか気に食わないらしく頭がぐるぐる回った螺旋の形になっている。
「角がないな・・・・建てるぞ!」
「ん!」
こうして一度は終わりかけていた作業をもう一度再開する。
まるで子どもが遊んでいるかのようだ。
時折響く笑い声をよそに同じくブリザードが吹き付ける場所では血を求めた獣が徘徊していた。
この豪雪では食物にありつける事はめったにない。
獣は文字通り血眼で獲物となる生き物を捜していた。
以前獲物に喰らいついたのはいつだったか・・・
その事を思い出す度に舌からよだれがたれる。
そして何時間も似たような景色を走り回った結果、ついに見つけた。
白くまんまるとした奇妙な建物。
頭には突起した角の様な物が数本・・・
そして中には獲物の気配が。
舌なめずりをしながら獣は気配を押し殺した。
かまくらの中では男がチョコレートを、そして生き物はドライフルーツにありついていた。
特に男は問題なしに食べているが生き物の方は不満そうに自分が口にする食べ物を眺めている。
「う~!う~!」
「しかたないだろ、エデンが見つからないんだから」
「う~!う~!」
「あ・き・ら・め・ろ いいか?」
「・・・・うぅ~」
小さくなったかのようにかまくらの隅に移動する生き物。
しかしそれも落ち着かなかったのかすぐ入り口の方にトコトコと移動する。
臨時宿泊所となった建物の中には小さな足跡がくっきりと残っていた。
相変わらずの景色を見渡す生き物。
どっちが目的地なのかを探る為神経を集中させる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !
「ん~!」
何かを察知したのか短い短い腕をその方向に指し示す。
その時、丁度チャオの腕が獣の鼻に当たった。
一瞬の沈黙、そして重なり合う雄叫びと悲鳴。
生き物は懸命に翼を羽ばたかせながら、獣は必死に足を回転させてその後を追う。
流石にこの距離では外で何があったかを感じずにはいられない。
男はしぶしぶながらも外を確認しに行き、やっと状況を把握する。
「こっちに来い!」
「む~!」
力を振絞り相棒でもある男の元に帰ってきた生き物。
頭のマークはまだ螺旋状だが表情は追われていた時とは違い明るい表情に戻っていた。
「グルルルル・・・」
獣は威嚇するかのように低い声をあげる。
全身の毛を逆立て、周囲をピリピリした空気に変換する。
「武器化しろ!」
「ん~~~ん!」
男の声を合図に生き物は蒼白い光に包まれる。
その様子に驚きうろたえる獣とは打って変わって口元が緩んだ男。
光が消え去ると男の手には奇妙な剣が握られていた。
扱いにくい、独特な形の剣だがこの男にとっては別の話。
二、三度試しに剣を振った後、構えに入る。
襲い掛かってくる獣の先制攻撃を難なく身を反らしてかわし、一閃の下相手をねじ伏せた。
男が武器から手を離すと先ほどとは逆の手順で生き物の姿に戻った。
「今日の晩飯は焼肉だ!」
「む!む!お~お!」
「どうした・・・? あっ」
ふと生き物と同じ方向を向くと、とてつもなく巨大なドームがあった。
かまくらを建てた所と距離はそう変わらない。
うっすらとドームに刻まれた文字が見える。
EDEN NO.2・・と。
「めっちゃ近くにあったじゃん!さっさと入ろうぜ!」
「ん!」
男は仕留めた獣を肩に担いでドームへと足を踏み入れていった。