第6話「真相をさぐる」
俺とラスの事件簿 第6話「真相をさぐる」
「い、家出ってことは誘拐されたんじゃー、ねーのかよ?」
健が驚きを率直に言った。
続けて隣の純がインタビューする口調で話す。
「チャオが家出なんて、ちょっと前例がなくて信じられないけど、家出なら行き先に心当たりがあってもおかしくないし、警察も馬鹿じゃ、ない。外からの進入者がいるかいないかぐらい、わかるさ。
なんで家出と思うのか、詳しく聞きたいね」
そう言いながら純はメモとボールペンを持ち出してきた。
「やめろ、純。これは秘密が約束だ!」
俺は純にきつく言った。
純はハッとして慌てて出した物をしまう。
「す、すまん功。つい、いつもの癖で・・・」
あぶねぇ、あぶねぇ。
危うく明日の校内特報にさせられるところだったぜ。
豊はまだ泣いている。ラスを抱きしめたまま。
多分、事件以来子供ながらに強気をはっていたのが、ラスに会って神経の糸が切れたんだろう。
本当にチャオが好きなんだな・・・いや、チャオにしか心を許していないのか?
「なるほどね。豊君がもう少し落ち着くまで真相は聞けないが、俺の考えでは役者がたりないぜ。・・・なぁ?有紀?」
「え?」
「チャオだよ。ユートピアと仲のいいチャオが真相を知っている、そう思ってラスが必要だったんだろ?」
有紀は黙ってうなずくと、部屋を出て行った。
チャオクラブのメンバー一同も「そうだったのか」と納得顔。
「ぐすっ・・ひっく・・。よ、よくわかったね。うん、そうなんだ・・・」
鼻水すすりながらぐしゃぐしゃの顔の豊が話し出した。
「・・ユートピアはあのテレビ録画の日から様子が変になった。元気が無くなって、いつも窓の外ばかり見るようになったんだ。僕はなんとなく不安になった。ユートピアはどこかへいきたがってる・・そんな気がしたんだ・・・。
ユートピアがいなくなる日、僕はお父様の友達の誕生パーティにいかなきゃなんなくて。この時はたまたまお手伝いさんも買い物とか、風邪とかでユートピアだけ家に留守番になった。でも一時間ぐらいでお手伝いさんは戻ってくるし、鍵もかかってるし、心配はなかった。・・・ただ、出かける時にユートピアの方から僕に抱きついてきて、あれ?って思ったぐらいで・・・。
今までこんなことなかったから、僕は嬉しくて・・・でも今ならわかる!あれはお別れの挨拶だったんだーー!!」
豊の目に涙がまたあふれてきた。
「お前、いつまでも泣くんじゃねーよ!」
健が静かに、だが厳しい口調で言う。
「男だろ!家出だろーが、誘拐だろーが、ご主人のあんたがしっかりしなきゃ、ユートピアはみつかりっこないぜっ!俺はこんなうじうじ野郎に協力すんのはまっぴらだね!」
博がなだめる。
「まあまあ、豊君はまだ子供なんだし、泣くのも無理ないよ。
でも、話聞いてると、そんな気がする・・ってだけで、家出ときまったわけじゃないよね。警察はガラスが割れてて、外部からの進入と発表してるし・・」
「・・・んー。それは多分、高木社長の画策だろう」
俺がポツリと言った。
「え!?」
豊以外が驚きの声を上げた。
「考えてもみろよ。もし家出が本当なら、これは1大スキャンダルだぜ?
チャオは保護を受け入れる生物だ。よほどのことがないかぎり自らご主人のもとを去るってことはありえない。
それは虐待、チャオに不愉快な環境・・・ということになる。そーなりゃ、高木開発の危機だ。世界から信用をなくすもんな。それより、「誘拐事件」にデッチあげて、被害者になる方を選ぶさ」
「同意見」
純が横から口を出す。
「家出ってことになれば、マスコミは真実なんてどうでもいい、あることないこと書き立てて、大さわぎするよ。こんなおいしいスキャンダルはないね!高木家はまる裸にされるだろうし。
ただ、高木開発の力があればバレても上からの圧力かけてもみ消すこともやりそうだけどね。それよりなんで誘拐事件デッチあげなんて、危険なことするんだ?いなくなったことを秘密にすればいいのに。それか嘘の病死とかに。こんなにさわぎ大きくしてどっちにしてもマイナスじゃんか」
「・・・僕が反対したんだ・・」
豊はもう泣いてなかった。
「僕は警察にたのんでもいいから探したかった。高木家なんてどうなってもいいからユートピアさえ戻ればいいんだ。それで、初めてお父様にさからって、警察に全部打ち明けるって言ったんだ」
「それに誘拐にしといた方が、なにかと高木氏に有利だ。病死だって人聞き悪いし・・多分あのアクアマリンのユートピアに多額の保険でもかけているんだろう」
「高柳さん、それは僕は知らないけど、お父様ならやりかねないです。お父様はユートピアのことはそんなに大事じゃないんだ。それより家名と財産の方が大事な人なんです。僕はお父様を尊敬してるけど、ユートピアのことだけはゆずれない・・!」