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「ふう、疲れた……」
大掃除だとかいう年末の面倒なイベントのせいで、俺はゆっくり過ごすことができなかった。
ついにそれも終わり、待ち望んでいた自由時間。俺はチャオガーデンへ向かう。
有料でチャオガーデンを貸してくれるところで一番安い物を選んだために、スペースはお世辞にもチャオガーデンと言えるほど広いものではない。
だが、公共のチャオガーデンなんかと違って自分以外のチャオはいないし、他人が来るなんてこともない。
それに元々一匹しかチャオを飼っていなかったから十分であった。
俺は転送装置に乗って、そのチャオガーデンへと行く。
「は…?」
そこにいたのは俺のチャオと、見知らぬチャオを抱えたこれまた見知らぬ女の子。
「はへ……、ここ、どこ…?」
と彼女はぽかーんとした顔で呟く。まだこちらには気付いていないらしい。
髪型は肩にかからない程度の短さ。ぴょいんとひとまとまりの髪が変な方向へ出ている。いわゆるアホ毛というやつだろう。
そして顔は――――というよりお前は誰だ。一体誰なんだ。アホ毛の時点で俺の知っている人間ではないぞ。
「で。転送装置に特に座標も決めずに乗ったらここに着いた、と」
「だーかーらー!ちゃんと座標決めたってばー!」
「じゃあどこに着く予定だったんだ」
「う…。えと…」
さっきからこんな感じである。仕方がないので別の質問をしてみる。
「どうやって帰るんだ?」
「え、えとー。『元の場所』って設定して転送装置に乗れば帰れるんじゃないかなあ…?」
だめだこりゃ。というより元いた場所も覚えていないとか大丈夫かいこの人。
「つまり、帰り方もわからないと」
「はい…」
「突然の事で誠に申し訳ない。小生の事は見殺しにしてくださっても結構でございますが、どうかお嬢様だけは…!!」
「もー、お嬢様だなんて言わないでよぉ、グレートー」
やたらと丁寧に喋ってくるのは彼女のチャオのグレートとかいうやつである。
何故かチャオなのに喋る事が出来るようである。どうやら彼はこの事を深刻にとらえているようである。
というか、その飼い主であるこいつが深刻に考えてなさすぎである。
で、結局。
「いやーほんとにすみませんー」
「小生まで泊めていただけるとは、どうお礼を申せば…」
俺の家に泊まることになった。
見知らぬやつらを泊めていいのか両親よ。
生活は普段と対して変わらなかった。
一人増えたところで俺は俺の生活リズムを突き通すだけである。うんうん。
いつも通りに飯を食い、いつも通りに風呂に入り、いつも通りに寝ようとしたまさにその時であった。
「すー…すー…」
俺のベッドには何故か先客がいた。
「なんでお前がここにいるっ!?」
「ひゃわわわわっ!?」
俺が叫ぶと同時に先客は飛び起きた。そして、俺を見て一言。
「だめ?」
「お前それでも泊めてもらっている身分かよ」
「うーー…」
と睨み付けてくる。いやそんなことされても困るんだが。
「ごめんなさいっ!!」
と言うと同時にやつはそのまま寝始める。俺がどうにかしようにも頑なに寝床をやつは守り通した。
俺の快適な睡眠はこうして確保されなかった。床の寝心地は結構悪かった。