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「俺は…やる気が無いのにたくさん殺した。そして、今元に戻っている。
意識も、何もかも…。記憶が鮮明すぎる。もはや生きている人間はこの街にいないだろう。
時間がかかりすぎた……」
泣き崩れる男に、チャオたちは静かに歩みよる。そして、歌を歌った。
静かで、月が見ているこの街を歌が覆った。
三人は泣いた。声を殺して、涙だけ流した。
そのときだった…。
「綺麗な歌声だね」
若々しい、あの女が後ろにいた。
女は泣き崩れる男の前に移動し、しゃがみこんで男の顔を見ながら喋る。
「どんどん自分の脳が侵食されていく。同時に、記憶がクモの物と入れ替わるのよ。
お陰で私は家族の顔とか、いろんな思い出が消えた。この街の人も消えた。
だけれど、私の声を信じてくれた人はミスティックルーインに少なからず避難している。
本国から人を呼べばやり直せるよ。それに、これは自業自得だって、クモの記憶を覗いていてわかったの」
それでも男は自分のしたことが信じられなくてずっと泣いていた。
女が喋ってくれる、クモの真意。それを聞きたくて、ずっとうずくまってた。
「昔も、チャオがクモの暴走を止めた。だからチャオに、昔暴走を起こした二匹の大きなクモが宿ったのよ。
それが"種"の"種"だった。そして、無数のクモは人間を支配して、人間を食い殺そうとした。
昔の暴走が一回目で、二回目は今。一回目は、殺生を楽しむ人間が今と違ってたくさんいたから…。
それで、クモも殺して楽しがってた。その様子を見て、知能を持ち、特別な力を"エメラルド"から貰った巨大なクモの二匹が立ち上がったの。
知能を分け与えて、機を待った。ミスティックルーインの奥まで行っちゃった人を待ってね。それが私だったの。
巨大なクモの"エメラルド"の力がクモごと消えてしまった今、あなたの暴走も止まった」
…。クモを殺していたのを見て、怒った仲間が人間をこの世から浄化しようとした。
簡単な思想…なだけに、ちょっと思うところがある。
「でも、俺は人を殺した。クモではなく、俺が…」
「記憶を残すからこそ、クモは人間を殺そうとしたのよ。
仲間を殺したという記憶が残り、暴走が止まって生き残った最後の人間が自殺をするように…」

全てを理解した。
何百年か前、この地には人間が住んでいた。そして、その巨大なクモもすんでいた。
クモはクモだけの領域を作り、そこだけで生活をしていた。
そこに生き物を殺して楽しむ人間がズカズカと入り込み、惨殺。
それに怒った巨大なクモ。"エメラルド"の存在を知り、そこから知能を手に入れる。
そこからは女がいった話…。自業自得。そのまんまだ。
女は男の後ろに回りこみ、話を続ける。
「だからあなたが立ち上がらないといけない。クモの知能には限界はあるけど、ずっとこの街にい続けたのはあなたとこのチャオだけ。
説得できなかった罪は重いの。生き残ったクモが、もう一回暴走を起こすわ。それを止めることができるのは…事態を知っている私たちだけなのよ。
私もあの子供に暴力を振るったりしたわ。駅で目をつぶって、あけた瞬間にはもうあなたが前にいて、私を刺してクモを出してくれたんだもの。
怖かった。記憶は鮮明に残っているのがね」
あの駅でのことか…。やはり、もう…。
だが、この女が言う通り、立ち直ることが必要とされている。男は勢い良く立ち上がり、後ろを見た。
その瞬間、銃声が辺りにこだまする。
女はチャオに撃たれていた。

「お前ら!一体何を…」
「巨大なクモは三匹いたチャオ!無数のクモと一緒に、もう一匹いた…。
それが、"人間クモ"チャオ!」
人間クモ…。人間のようなクモであると、チャオに説明をした後に少しだけ思ったフレーズだ。
無数のクモと一緒に、あの肉体にもう一匹いたらしい。
間違えて無数のクモに入られてしまった可能性と、あえて入れておいた可能性とじゃ…どちらが高いだろうか?
「人間のような知能を持つクモ、の略だったりするのか?」
「違うチャオ…。"人間の形をしただけの、完璧なクモ"のことチャオ!」
「さっきからコソコソ相談してたチャオ。本当に信じられるのかってことをチャオ…。」
「後ろに回りこんだあなたをこのクモは狙っていたチャオ!」
後ろを振り返ると、さっきの女がどでかいクモになっていた。
恐ろしい。殺される寸前だったのか…。それじゃあ、一体どこまでが本心だったのか?
謎は深まる。歴史には残っていないはずだ。
暇な時に好奇心で読んでいた、歴史のことを特集した古本。それに載っていなかったはず。
それを思い出し、急いで本のあるマンションに戻る。

人間の死体だけが散乱する道路を歩き、マンションへ。
電力は非常電源だろう。残り少ないはず。エレベーターを使い、部屋へ。
本を読む前に、本国へ国際電話を使う。
「もしもし、発信源は分かりますよね?良く分からない殺人事件が発生しまして…。警察かなにかをよこしてほしいです」
そう一方的に言うと、電話を切った。
本をめくり、クモに関することを探した。
[不確定]の情報を集めたページに、こう示されていた。

「人間がクモを連れ、人里を駆ける」
紛れも無く、人間クモであった

このページについて
掲載号
週刊チャオ第218号
ページ番号
7 / 7
この作品について
タイトル
「人間クモ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第218号