なななないふっ!
【なななないふっ!】
——そういや、最近を夢を見ていないよなぁ。
朝起きて洗面所とにらめっこしながらそんなことを想う。
唇の端っこの方に白い得体のしれない塊がちょびりとついていて、おまけに歯やベロに何とも言えない汚物感。このところは花粉症が蔓延しているのもあってか、鼻呼吸では良い眠りにつけない。でも、口呼吸で一夜を過ごして、朝起きてこれではどうもイヤな気分だ。
いつも以上に歯磨きに気を配り、ベロも軽くブラシで擦る。
歯磨き粉の医薬っぽいキシリトール味が染みて、スースーとした清涼感が口に満たされたところで、俺は水を含んで吐きだした。
「ふぅ、すっきりした」
本当はこの後シャワーを浴びたいが、残念ながら専門の授業がが朝っぱらからある。会計士のためのダブルスクールもあるし、夜までお預けだ。
寝ていた時にきていた服を脱ぎ捨てていると、さっきまで寝ていたベッドの横がもぞもぞと動く。ちらっ、とまくら代わりにしてるクッションから視線を感じるが、今日はあまり構っている暇がない。
「かまってよー」
俺がわざと邪険めに扱ったのを感知したのか、クッションを両手でギュッと抱えながらじっとり目線で訴えてくる少女。
名前は『神流菜々(かんな なな)』と言うらしいが、普段の呼び方にそんな要素は使わないので、ふとしたタイミングで忘れてしまいそうだ。こうやって、想いだせるタイミングに想い出しておかないと、ねぇ。
「今日はオマエに構っている暇なんてないんだ。授業があるんだよ」
「授業? えー、休めばー?」
寝ぼけ眼を擦り、左サイドがところどころぴょこんと立った寝癖を手で押さえながら菜々は首をかしげる。確かに、大学の授業では最後の期末試験だけで成績評価する授業も多いし、休めるといえば休めるのだけれど……。
だが、……少なくとも、現在進行形で女子高生である菜々が言うことではない。
「お前もさっさと用意しろよ。今8時20分だぞ?」
「んー? 今日はおこもりするー」
まるで当然、と言わんかのように左手を上げて俺に手を振る。
「……。あっそ。先生が誰かはしらねぇけど、自分で電話しろよ」
「はーい」
俺が玄関から出る直前に見えた光景は、彼女が再び夢の世界へといざなわれるかのように、ベッドにもう一度潜り込んだシーンだった。
※この小説は、チャオと大学生とロリ体型のJKが出てくる、全年齢対象のほのぼのホラー小説です。