1話 扉を開けるチャオ
無限大の増殖 1話 扉を開けるチャオ
「珍しいチャオはいりませんか?」
なんか怪しい男。それが俺のチャオガーデンに入って来るなりそう言った。男の後ろにある箱には珍しい種類のチャオが沢山入っていた。
「えぇっ!?オニキスチャオがいっぱい…」
オニキスチャオ。それはとても珍しいチャオの一種で、買うのには何万リングもかかる。彼はそのチャオの値段を訊いた。
「100リングですよ」
男はゆっくりとした口調でそう言った。彼は信じられなかった。オニキスチャオが100リング。おかしいとは誰もが思うはずだ。繁殖をさせれば何匹も生まれさせられるだろうけど、ハートの実は1個300リング。つまり、明らかに損なのだ。
「なんで…そんなに安いんですか?」
彼は思ったとおりのことを訊いた。すると男は微笑んで
「損得ではなくて…珍しいチャオをみなさんが所持できるような…そんな世界にしたいと…」
それを聞いたら彼はなんとなく納得してしまった。そしてオニキスチャオ3匹買った。
「あんな人もいるんだなぁ…」
買ったオニキスチャオを撫でながら呟いた。前に、金持ちの奴に自慢されて腹がたったことがあるが、それがなくなると思うと嬉しくなった。
それから数日後のことだ。あることに気が付いたのは。
「なんで、この3匹はいつも同着なんだろ?」
3匹のオニキスチャオ。それぞれ同じ数だけ同じ種類の小動物を与えたんだ。すると、付いたパーツも、能力も全く同じなのだ。顔の特徴も。
―ソウ、悲劇ヘノ扉ハ開イタノダ。―
「よし、行くかぁ」
今日は、月に一度は必ずするチャオの見せっこ。レースをしたりカラテをしたりするのだ。
「今日は…こいつと、こいつだな」
彼はお気に入りのソニックチャオと、オニキスチャオ1匹を連れて家から出た。
「遅いぞ。疾風(ハヤテ)」
「悪い悪い。…お?お前もオニキスチャオを?」
疾風。それは彼の名前。自分で思うのはおかしいが格好いい名前だと彼は思っている。また、話しかけてきたのは友人の勇基(ユウキ)である。
「おぅ。100リングで買ったんだ」
「へぇ…俺もだよ」
「えぇ!?疾風もかっ!」
なんか、不気味な予感がした。勿論、その予感は的中する。会場となる友達の家に来た全員がオニキスチャオを持ってきていたのだ。
「やはりな…」
与えた小動物は違うため、能力に差はあったがほとんど同着。特徴も全て同じ。そういう点に気が付けば気が付くほど不気味なチャオ達だった。
―気ガ付イタ時ニハモウ遅イ。スデニ扉ハ開イテイル。―
「ほぅら!カオスドライブだぞぉ!!」
勇基が買ってきた大量のカオスドライブを投げる。すると、オニキスチャオ達はそれを争うかのように取りに来る。
「なんで、このチャオ達だけこんな激しく取り合いをするのかしら…」
その女子の呟いた言葉を疾風は頭の中で繰り返していた。
「あ…この人…」
夕刊。その1面記事に、前に来たあの男の記事が載っている。記事は、疾風の時と同じ言葉が書かれていた。
―損得ではなくて…珍しいチャオを…―