[this is my time, I can't give it]
>atasi視点
バイクのエンジン音が止まった。
強盗した後の逃走が、終わりを告げる。
そして、わずかなホワイトカラーの休息が始まる。
彼はごつごつした畑が見渡す限りに広がる、
でもそれでも、なにかほんのりとした暖かさを残した街に止めた。
彼は私が好きなところにいつも連れていってくれる。
私と彼は気があっているのかもしれない。
それか…、
もしかしたら、私がただ単に彼に染まっているのかもしれない。
でも、この場合はポジティブな選択を選ぼう。
瀟洒な喫茶店に目を向け、私は彼の手を引っ張った。
こういうときに、いつもの「形勢」は逆転し、
私が彼をリードする。
彼は小さいときから遊び慣れていないんだろう。
彼の背中のタバコの痕、切り傷、
多分折って、治療もせず完治してしまった、
少し歪んでいる左手の薬指。
逆にあのときの私はつややかな髪の毛で、
人形みたいに高級な服を着替えて、
ブランド物を携えて、沢山の友人と遊び歩いて…。
彼と出会ったとき、私は心が痛んだ。
現実に。彼に。
自分の裕福な生活が、縛られすぎた生活が嫌いになった。
でも、それでもその生活からはなかなか抜け出せなくて、
彼のことも…最初会ったときは好きじゃなかった。
彼は自由奔放で、野心家で、女に興味なんか無くて、
だらしなくて、汗かきで、妙に長髪で、目は垂れ目っぽくて…
冷たくて…でもたまに優しくて、強くて…そう。
「いつの間にか」私は彼にあこがれていた。
「いつの間にか」好きになっていた。
そうなったことに、
「好き」という以外の理由をつけろ?…無理だ。
「…ふふ。」
「?」
「何で私って、あなたに着いてきているの?」
「お前が着いてきたんじゃねーか。」
「本当にそう?」
「え?じゃあ、他に何か理由でもあるのか?」
「あるよ。あなたが私を連れ去った場合!」
「…バカ。」
彼は私を小突いた。
気のせいだろうか、彼の顔がほんのりと赤くなっている。
多分、私の思う予想とは全然違う理由なのだろう。
風が吹く。
秋風は、暖かさを残しながらも…鋭く、寒い。
彼は寒がりだ。
すぐに顔にそれが表れるから、よく分かる。
小さいとき、ベランダに閉め出されていただろうか。
1人で、寒さに震えて、
こうして今でも生きているのだろうか。
彼は強い。
私とは大違いだ。
でも、少しくらい、私かって…役に立てる。
私は彼の腕を強く引き寄せた。
恋人とは彼は思わないのだろう。
そんなことは分かっている。
私が聞きたいのはその後の言葉だった。
「やめろよ。「暑い」じゃねぇか。」
私は笑顔で空を見上げた。
星空が輝く。
私の嬉しさが、最大にこみ上げる時。