ちっちっちっと男の腕時計が回っている。
デジタル的なその動きとともに男は動作を停止していた。

目の前には敵―もとい警察官約20名ほど。
全員盾と銃を持っている。

対する男、武器は木刀とガムだった。



―「酸塊(すぐり)」、すぐに投降しろ。
―へぇ、俺のコードネームを知っているのか。なかなかだな。
 で、調子に乗って逮捕ってか・・・?
 ちっ、むかつくヤローどもだぁ・・・。
―さぁ、早く投降しろ!木刀でかなうはずがない!
 それは百戦錬磨のおまえならわかるだろ!
―ぁ?俺が分かることは一つしかねぇさ。
 …俺は勝つってことだ。



『モノクロームの反転』



場所は高層ビルの摩天楼。
男は逃げる方法がどこにもなかった。

しかし、男には勝算があった。
男はポケットのガムを一つ取り出した。
大粒のガムだった。

刹那、

男はガムを警官の右横に向かって投げつけた。
警官の目がそっちに動いた。

―ちっ、バカめ…!

男は走りかかった。
一人の警官ののどを突き、銃を奪う。
その警官は呻いてその場に倒れた。
そして、他の警官も銃を奪われたと分かると、
思わず声を出してしまっていた。



―し、しまった!
―へへ、…THE ENDだ。



男は銃を撃ちながら、木刀で次々に警官を気絶させる。
警官も応戦するが、盾をも奪った男は無敵だった。
数秒後、警官は全員倒れていた。
しかし、全員が息をしているのは確かだった。



そう、男は銃を直接撃たなかったのである。



そのとき、上からヘリの音がした。
男はヘリのはしごに掴まる。
そして、警官から奪った銃を一発空に撃った。
歓喜の一発だった。



男はヘリの中に体を滑らせた。
そこには髪をつんつんにたてた男と、
ヘリを操縦する筋肉質の巨体の男がいた。
髪をつんつんにたてた男は、
髪の毛をさわりうつむきながら問いかけてきた。

―酸塊よぉ、例の遺伝子は奪えたか?
―炎(ほむら)、なにいってんだ?当然だ。
―でも、結構ピンチだったじゃねぇか?酸塊さん。

炎はわざとらしく「酸塊さん」と丁寧に問いかけた。
酸塊は舌打ちをして、炎を見た。
木刀は歴戦の痕のようにいくつもの傷が刻まれている。
今の戦いだ。

―…あんな状況なんて日常茶飯時なんだけどな。
 でもまぁ、こんなブツを奪うのは久しぶりだな。

酸塊は8色のアルミ缶のようなものを、
お手玉のように投げて遊ぶ。
もはや、大切なモノでないような扱いをする彼をみて、
炎は軽く質問を投げかけた。

―…で、この遺伝子の意味はどんなもんなんだ?
 そう…遺伝子コード、「C H A O」というモノは?
―炎・・・それくらいしっとけ。
 この遺伝子は、液状生物が生まれる可能性があるんだよ。
 地球の重力に逆らう生物のな。
 そして、それの生物名の通称を「CHAO」と言うんだ。
―はは、たいそうなモノを奪ってきたもんだな。

炎は少し理解に苦しみながら、酸塊を見た。
酸塊は「こいつは頭が悪いな」と思ってため息をつく。
彼が笑って言い返すときは、それを理解していないということを、
酸塊は知っていた。

と、操縦をしていた男がすばやく振り向いた。籤(くじ)だ。
彼は携帯電話を片手に、彼らに話しかけてきた。
どうやら、何か言いたいことがあるらしい。

―おい、おまえら、大変なことが起きた。
―何だよ、籤(くじ)。そんな顔してよぉ。
―酸塊、炎、驚くなよ。
 去年あの事件で死んだあの野郎に、娘がいたらしい。
―な、何だと!?
―今、情報屋の棒名(ぼうな)からそうはいってきた。
―棒名の情報か・・・確率は確実に高いな。
 場所は・・・どこだ?

炎の問いに、籤は地図を取りだして、
そこの場所を析出した。
籤はその場所を見て「ぉぃぉぃ」と少し笑って、
二人の方を見た。

―場所はな・・・。



三人を乗せた戦闘型ヘリはその場所に向かった。
そして、そこからこの反転の物語が始まる・・・。



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この作品について
タイトル
モノクロームの反転
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第274号