もみの木の夜明け~クリスマス前
クリスマスのちょっと前の日のこと。
ソニックはチャオガーデンで、あの調査を始めることにしました。
腰をかがめて、できるだけさりげなく、近くにいたチャオに話しかけます。
「なあ、今年のクリスマスは、サンタさんに何を頼むつもりなんだ?」
話しかけられたチャオは、一瞬きょとんとしてから、うーんとうなって、それからポンと手を打ちました。
「やっぱり、今年の冬は、DSiちゃおね」
ここまではソニックの予想通り。ソニックはDSiの欠点をあらかじめメモしています。
「DSiってあれだろ。GBAスロットが廃止されたやつ」
しかしチャオの方も、負けてはいません。
「で、でもね! カメラだってついてるし! 音楽も聴けちゃうちゃおよ!」
「たった30万画素のカメラなんて、どこで使うのかなあ?」
ソニックのいじわるそうな顔が、チャオににじり寄ります。
「……どこで使ったって、チャオの勝手ちゃお!」
「それにお前、DSのゲームソフトを持ってたっけ?」
「う……」
「お前のことだから、DSiを持ったまま池に飛び込んで、すぐに壊してしまわないか心配だなあ」
「う、う……」
ソニックは立ち上がって、極めて明るく言い放ちます。
「もうちょっと、考えてみろよ」
プレゼント口論に負けたそのチャオは、がっくりとその場にひざを(ないけど)つきました。
そう、ソニックはクリスマスにチャオにプレゼントをするために、下調べをしている最中なのです。
ソニックは次のヒーローチャオに話を聞きます。
「なあ、今年のクリスマスプレゼントは?」
「待てちゃお!」
ヒーローチャオのするどい声と、その目つきに、ソニックはただならぬ気を感じました。
「ワタシが狙っているのは、あれちゃおよ~」
ヒーローチャオの視線の先を辿ると、ガーデンのテレビにちんまりと映る、プレイステーション3。
「最高の映像美、最高のサウンド、最高のエクスペリエンスが、あの中には詰まっているちゃお~」
ソニックはそれを聞いて超音速で、PS3のダメなところを書いたメモを取り出しました。
「そ、そのためにはまず、ハイデフテレビがないと楽しめないんじゃないかな?」
「フッフッフ……」
不敵な笑い声がチャオガーデンの向こう側、斜面の頂上から聞こえてきます。
「それならチャオが、ビエラをサンタさんに頼んでやるちゃお!」
青チャオの逆プレゼント予告。
「フッフッフ……」
不敵な笑い声が、今度は池の向こう側から聞こえてきます。
「じゃあチャオは、5.1チャンネルサラウンドシステムを!」
コドモチャオの逆プレゼント予告。
「フッフッフ……」
不敵な笑い声が、今度はやしの木の上から聞こえてきます。
「チャオはMGS4を頼むちゃお!」
震える声で、チャオに告げ口するソニック。
「あの、それCEROでDランク(※注:17才以上対象)……」
「サンタさんなら、たとえDランクでも、堂々と買ってこれるちゃお!」
やしの木の上に立つチャオがふんぞりかえって言い放ちます。
「ほんとはソニックワールドアドベンチャーが欲しかったちゃおけど、延期してしまうから、どうしようもないちゃおよ~」
痛いところを突かれて、ソニックは困ってしまいました。
ソニック、15歳。肩書きは、苦労人。
「やれやれ……」
ソニックが失意のうちにチャオガーデンを去ろうとした、その時でした。
ぐすんと、だれかが泣くような声がしたのです。
お出かけマシーンのかげのところ、ふだんあまり目立たないダークチャオの子が、そこにはいました。
ソニックは近づいて、そっと話しかけます。
「どうしたんだい?」
でも、そのチャオはどうにもめそめそと背中をふるわせるだけで、何もしゃべろうとしない、いや、しゃべりたくてもしゃべれないようでした。そのチャオは、今にも泣き出しそうな様子で、くちびるを(ないけど)ぎゅっとかみしめていました。
「お前も、クリスマスに欲しいものがあるのか?」
ダークチャオは黙って首を横に振って、か細い声で言いました。
「チャオ……」
「ん?」
「チャオ……PS3もビエラも、5.1ナントカカントカも、買えないちゃお……」
明らかに落ち込んでいるダークチャオの声。
理由はよくわかりませんが、とりあえずソニックは励まします。
「お前が買えなくたって、サンタさんに頼めばいいじゃないか? なっ?」
「うーん……」
「Hey! 元気出せよ」
でも、ソニックがいくら励まそうとしても、ダークチャオは悲しそうな顔で、首を横に振るばかりなのでした。
「どうしてPS3やビエラを、お前が買わなくちゃならないんだ?」
「それは……言えないちゃお……」
ダークチャオはチャオガーデンのテレビの方に目をやって、それから「はあ」、とため息をつきます。
「そんなに急がなくても、ゆっくりリングを貯めて買えばいいじゃないか」
「ソニック……」
ダークチャオが振り向いて、ソニックの目をじっとり見つめます。
「お前、デリカシーがないって言われたことはないちゃおか?」
その言葉は矢となって、ソニックの心を突き刺しました。
「あ、あのなあ……」
ソニックはチャオガーデンを出たあと、超音速でステーションスクエアのおもちゃ屋さんへと向かいました。
店名のRが鏡文字になっていることが気になる、あのお店です。
ソニックはとてもじゃないけど、DSiやPS3をプレゼントしてやるつもりはありませんでした。ましてやビエラや、5.1チャンネルサラウンドシステムなんて。
もうちょっとチャオたちにもサンタクロースの財布の事情も考えてプレゼントを要求するようにしつけないといけないなと、ソニックは思いました。
「さーて、クリスマスプレゼントっと」
ソニックは買い物かごを手に取り、軽やかな足取りでおもちゃを見て回ります。
ミニカー、積み木、ぬいぐるみ、お絵描きセット……
チャオガーデンでの調査はあまり役に立ちませんでしたが、ソニックはもちろん、育てているチャオの好みをちゃんと知っています。
でも……
ソニックの手が止まりました。
(あいつには……?)
ふだん目立たないダークチャオ。その好みを考えて、ソニックは困ってしまいました。
こういうとき、いつもなら適当なおもちゃを選んでやるのですが、今日は事情が違います。あんなことを言われた手前、どうすればいいのか見当もつきません。
デリカシーなんて言葉、いったいどこで覚えてきたんでしょう。
「……ま、いっか」
ソニックは組んでいた両腕をふりほどきました。
「なんとかなるだろ」
ソニックは持ち前のポジティブシンキングを発揮して、買い物かごを手に、レジへと向かいます。ちゃんとプレゼント用の包装をしてもらうのも忘れずに。
サンタクロースがやって来る、数日前のお話です。