~白鷹潤一の覚醒~ 三章

一刀、両断。
混沌制御の高エネルギーで創り出した黄金の剣は、どこまでも高く伸び、化け物を縦真っ二つにした。
円まゆかが驚きの視線で見ている。
城宝はあっけに取られていて、親友はにやっと笑っていた。
冬将軍はポーカーフェイス。
化け物は、
消えた。
水は一瞬にして消え、ビルは崩れて来る。
やばい、と思ったが一瞬で、街は元通りになっていた。
俺の体も、どこも変化無し。
通行人、たくさん。
ぶわっ――っと頭の中が広がる感覚。何をしようとするのか、何がなんだか、良く分からず、うまく掴めず、あれ、どうしたんだ、と考えると、再び何がなんだか分からなくなる。
色んな事が混ざり合って、色んな事が過ぎていって、色んな事が一度に現れて、
俺はいつの間にか、我が家の白い天井を見ていた。



「…」
無言であたりを見回して、次に時間を確認して、最後に俺の体を確認する。
何とも無い。
普通の日常の、昼間だ。
「…」
独り言を呟くのも難儀なので、俺は口を開かずに思った。
夢か?
だが夢ではないはずだ、でも夢かもしれないしそうではないかもしれない。
普段生きている事だって過ぎ去ってしまえば本当はそんな事なかったのかもしれない。
夢?
現実だとして、誰がそれを証明出来る?
あいつらは、どこへ行った?
…虚しい、止めよう。
全部、夢だった。
いまさら夢オチなんていわれても困るが、これは夢だったんだろう。
そうだ。「これ」は、夢なんだ。
だけれど、永遠に醒めない。そして、これこそが俺の人生そのものでもある。
「夢」だけど、「現実」。
なぜならば、人生ははかない。過ぎ去ってしまえばそれは「夢」のようなものだからだ。
そうだろう?フレア。
「起きたのなら、何か喋ってくれないと分からないよ。相変わらず気配も無だね。」
頭の上に黄色い球体を持つ古代生命体、フレア=フォーチュン=ザ=チャスティス。
普段は可愛げがあるのに、口を開くと生意気な事この上ない。
「独りでぼやぼや呟く奴がいたら、俺はどうかと思うが。」
「ふう。全く。いつもはぼそぼそ呟いてるじゃないか。」
記憶に無いな。
「もう起きちゃったの?ちぇ。」
円の声がした。お前は寝ている俺に何をするつもりだったんだ。
「怪我とか、無い?」
城宝の声もする。ああ、俺を心配してくれるのは城宝だけだ。
「ホットケーキの材料が無いんだが。」
親友、勝利の喜びを分かち合おうぜ?
「どうやら、平気みたいだね。」
冬将軍、やっぱりポーカーフェイスなんだな。
「はあ、一時はどうなる事かと思ったぜ。」
寿原、俺の家にあがるのは初めてだろう―は?
「おい、寿原。お前、どっちの寿原だ?」
「向こうの世界を気にする必要は無いよ。きみが〝パーフェクトカオス〟ごと、消したから。」
そうなのか。俺は知らんが。
「これでもう大丈夫なんだろうな?」
「心配は要らないと思うよ。信じるか信じないかは、きみ次第さ。」
そんな風に言われては、信じるほかあるまい。


こうして、俺を巻き込んだ大騒動は、世間一般的に何も無かった事として幕を閉じた。
俺はやっとの事で安心して、だが安心できる材料が揃っていない事に気づく。
円まゆかは、まだ〝ガイア〟の分身なんだよな。
ところで、城宝に対しての返事は、まだ正式にはしてないんだよな。
でも今更あれもなんだし、あるいは永遠に保留って事にいやいやそれは男としてどうかと…
俺って、もしかして相談相手がいない?
親友は〝アンチサイバー〟だし、冬将軍もしかり、寿原も同様。
く、自分で解決しろってか。
はあああ………全く、大した世界だぜ。





後の話となる。
いつものように通学路途中のポストを通り過ぎて、俺は傍目から見れば浪人生のようにだらだらと歩いていた。
太陽が真夏前だからかさんさんと照りつけ、そういえば梅雨はもう少し先か、と考えたところで、俺は後ろから超高速の右ストレートを後頭部に食らった。
「ってええ!!」
「ぼけっとしてるからよ。警戒心全っ然無いんだから。」
にやりと笑いながら俺を見下すそいつは、無論円まゆかだ。ああ畜生。抜かったぜ。
「だからって殴るか。」
「殴るのよ。」
後頭部をさすりながら歩く俺。平凡だ。
「ねえ。」
話しかけるより用件を先に言ってほしいんだが。
「早苗ちゃんの事好きなの?」
「なぜそうなる。」
…好きじゃないといえば嘘だが、はっきり言って数日前よりはかなり心の向きが違うような気がする。
数日前までは確かに、愛情かどうかは別として、少なくとも好きではあった。が、今はそういうんじゃないような、むしろ共通意識というか、戦友と言う方が正しいかもしれない。
最も、そんな事をわざわざ言ってやるような馬鹿ではないつもりだが。
「答えなさい。」
「なぜお前に従わなくちゃなんねえんだ。」
「何でもよ。」
むちゃくちゃな理屈だな、おい。
「気が向いたら答えてやるよ。」
「何それ。否定するか、肯定するか、どっちかにしなさいよ。」
否定したら、「じゃあ誰が好きなの?」って来るだろ。と予想した俺は、無言のまま歩く足を早めた。
「こら!待ちなさい!」
〝無力化〟を使えば、こいつの勢いも少しは収まるのかね。
そしたら、収まったところで言ってやろう。化け物に突っ込んだ時のような覚悟で。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第273号
ページ番号
40 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日