1
最近あまり意識もしなくなった。クリスマスなんて。
そんな俺を昔は誰が予想しただろうか?
いや、ある意味、これは運命なのかもしれない。
あぁ、腹が痛くなってきた。コンビニでも入ろうか。
『lost thing』
河辺真(こうべしん)。
今年で26になる。恥ずかしい話だが、二十歳から、
誰一人としてつきあう人はいなかった。一人オオカミ。
そうして、明日にクリスマスイブを控えた男がコンビニ。
誰か笑っているだろうか、笑ってくれ。
今夜は他の残り物(要は誰ともつきあわずに聖夜を迎えた人)達と
やけ酒でも飲み交わそうか。そうしよう。
いくら慣れてるといっても、ひとりぼっちは性分に合わない。
そして、そんな夜道を歩いている頃・・・。
誰かの悲鳴が聞こえてきた。チャオではない、人だ。
「や、止めてください。」
「うるせぇ、そのバックをもらおうか・・・。」
「そ、それはダメです、今月生きていけない・・・。」
「おまえのことなんて知った物か。」
ふぅ、全く。俺は男の方を見てため息をついた。
その男は俺よりも下に見えた、いや、多分そうだろう。
そんな奴が何をしているんだと。包丁もって。女子高生に。
しょうがない、一肌脱ぐとするか。
俺は、男に近づいていった。
「そんなことしてると後悔するぞ?」
「んだと?てめぇもぶっ殺して・・・。」
有無を言わさず、男は気絶した、弱い。雑魚に金棒か。
運動する間もなかったな。
そんでもって、どうせ女の方がお礼に・・・。
・・・何かさりげなく逃げいているよ。
やっぱり現実が違うんだなぁ。改めて思う。
ま、俺は女子高生という種はそもそも嫌いだし、いっか。
ところで、さっきから、気になっていたが・・・。
あぁ、ただの鞄か・・・。ってさっきの女のじゃねぇか!
馬鹿だ、あいつは。だから女子高生なんて嫌いなんだ。
だがさっきの言葉ではこういっていたよな。
「今月生きていけない・・・。」と。
・・・ダメだ、俺が風邪をひくんじゃねぇか。でも良い。
俺の性分だから。またこの言い訳を使うか。
此処で待っているか。どうせ戻ってくる。生きるために。
「・・・誰、ですか?」
この声は持ち主か?俺はそう訪ねようとした瞬間・・・。
「あ、私の・・・。」
どうせ鞄を返して欲しいとでも続けたかったのだろう。
だが、こいつは声が出ないらしい。怖いのか?俺が。
俺はそう感じて、無言で彼女を見下げて、鞄を差し出した。
ほらよ。ひったくってさっさとどっかに行ってくれ。
だが、彼女は鞄をゆっくりととった。礼儀があるのか。
そして、中身を確認しだした・・・瞬間。
チャオ~と言って、何かが飛び出してきた。
「うわっ。」と俺は思わず声を上げた。
「あ、すいませんっ。こら、ジミー。驚かせないの!」
「な、なんだよ。チャオか。あ~びっくりした。」
俺はそのヒーローチャオを自分から取る。
ふ、俺のこの孤独を知っていないだろう、その笑顔。
でも、おまえはパートナーがいるんだな。良かったな。
「あの・・・何か痛かったのですか?」
「いや。別に・・・あぁ、大丈夫ですよ。」
俺は途中で涙を流していることに気付いて、あわてて拭く。
だが、コート自体雪で濡れていたのでたいした意味はなかった。
「いや、でも心配です。うちに寄っていってください。」
「でも親御さんに失礼でしょう。見たところ高校生では?」
すると、彼女は急に暗い顔をして言った。
「大丈夫ですよ。私の所は孤児院ですから。」
あぁ、行けるようだが心は大丈夫なのだろうか?
「あ、すまんな。つい・・・。」
「いいんです。このお金さえあればみんな生きていけます。」
「生きていく?」
「そうです、私もバイトで必死に稼いで、そしてみんなで分けます。」
「あぁ、だからさっきそう言っていたのか・・・。」
俺は少し助けたことに誇りを覚えた。
そして、歩くこと10分程度だろうか。
俺たちは孤児院の前にいた。
失礼だが、新しい建物とは言うことが出来なかった。
ドアをくぐった瞬間小さい子どもたちが走り込んできた。
「わ~い!しーちゃんお帰り!」
「しーちゃん?」
「あぁ、すいません、私の名前は水崎栞(みずさきしおり)です。」
「あぁ、だからしーちゃんな訳ね。」
次に、此処の院長らしき人が顔を出してきた。
「えっと、栞さん、お帰り。隣の人は?」
「あぁ、さっき路上で強盗から助けてくれたのです。」
「そうですか。ありがとうございます。名前は?」
そんな感じで孤児院に暫くいることにした。
ついでに子どもたちとも少し遊んだだけでずいぶん懐かれた。
俺は暇をもてあますことはなかった。
成る程。落ち着くんな。それは此処の人たちにとっても。
俺は、1時間くらい過ごしてから此処を出た。
ふう、外に出るとさっきの喧騒はいずこへ。
本当に静かな夜だ。・・・雪が降ってきたな。帰ろうか。
俺は足早にアパートに向かった。会社に行くまで寝ないとな。
明日こそは残り物のやけ酒につきあってやろう。
続く。