余録
…作者がたくさんの人やチャオに追いかけられているその頃、パーティー会場の隅っこ。
【霜月】「10年、か…長いわね…」
ドタバタ騒ぎを一通り見終わった霜月が誰もいない会場に戻り、ワイングラスを片手に1人で座りながらつぶやいていた。
するとその横に、1人の女性が現われた。年齢は20代前半だろうか。
【女性】「お久しぶりです、霜月さん。」
と、彼女が一礼をする。霜月も立ち上がり、軽く挨拶をした。
【霜月】「あら、久しぶりね。…最近どう?」
【女性】「ええ、おかげさまで元気にやってます。」
【霜月】「そう、なら良かった。…そういえば、『あっちの世界』は今、どうなってるのかしら?」
【女性】「ついにオタクが総理大臣になっちゃったわ。かと思えば海の向こうでは黒人が大統領になるっていうし…」
【霜月】「なるほどねぇ。…時代は変わったわね…」
そう、静かにつぶやいた。
少しの沈黙の後、霜月はこんなことを彼女に尋ねた。
【霜月】「10年前の総理大臣って、誰だったかしら?」
【女性】「橋本さん…は98年の夏に退陣してますから、小渕さんですね。」
【霜月】「今ではどちらもこの世の人ではないのよね、確か…」
【女性】「ええ…」
【霜月】「10年前、まだ黎明期だったインターネットの世界で、チャオという1つのキャラクターの下に集まり、次々と傑作が生み出されていった…その結晶が、ここにある…」
【女性】「黎明期なのに、ではなく、黎明期だからこそ、でしょ?」
【霜月】「そうね…もうこんな世界を作り上げることは、誰にもできないでしょう…
だからこそ、価値がある…分かってるわよね?」
【女性】「はい。この『失われた10年の記録』を…あっちの世界に…
それじゃあ、また会いましょう。…必ず。」
【霜月】「ええ、必ず、ね。」
そう別れを告げると、その女性は歩いて立ち去った。
【霜月】「………」
霜月は彼女の姿が見えなくなるのを確かめると、『2つの世界』について、考えを巡らせていた。
もう『あちら』とは繋がることがないかもしれない。そんな話も、この喧騒の中では現実感に乏しい。
【霜月】「ふーっ…」
しばらく考えた後、彼女は大きく、深くため息をつきながら、再び椅子に腰掛けると、ワイングラスを傾けた。
<おしまい…?>