22話
「つまり…俺が報告義務を行ってなかったからこいつを送って確かめさせようとしたってわけ?」
「そういうこと。あなたが余計な暴走をしたりしないようにとのせめてもの親心じゃあないかしら?」
—親心か・・・。
実際血が繋がってた訳でもなかった・・・
ただの偶然だったのにな。
ユウヤの中ではまたも父親の幻影が現れていた。でもすぐ掠れていく。
消えかけた灯みたいにだ。
ただそんなものをいつまでも見つめている程の時間はない。
今はすべき事があることは本人がよくわかっていた。
「後は・・・仕事上友達の少ないあなた達へのきっかけ作りなのかもしれないわね」
「きっかけって何の?」
アオイは間髪いれずに問い返した。
その上司という人は笑いながらアオイに視線を定める。 ほどなくして次はユウヤに。
「この機会を縁にね、お互い付き合ってみてもいいんじゃない?」
「「無理!」」
返事もタイミングもぴったりだ。それを聞いてまた笑い出す人もいれば睨み返す人たちもその場にいた。
「二人ともそこまで年は離れてないし…」
「あたし17よ!!」 「ロリコンの趣味はないから安心しろ」
またも壮絶なにらみ合いだ。
何だかんだで意気がぴったりじゃないと呟いたが当の二人にはそんなのまったく届いてはいない。
視線と視線が飛び交うデッドヒート状態だ。
「流石にそれは冗談。でも同じ職場の人間とコミュニケーションがとれるのはお互いプラスだから。損はしないはずよ。」
「そうだな。」
「・・・職場ってあのSEAってやつでしょ?もぅあれしつこいからイヤなんだけどなぁ~」
「でも、この国にとっては貴重な能力を持った必要な存在なのよ?」
「わかってるけどさぁ~・・・」
「まぁ17にはキツイ職場だな。」
その直後だ。
どこからか声が聞こえてきた。
声はどうやら俺の中かららしい。
とユウヤが気づくのに時間はかからなかった。
”SEA…アメリカが設立したCIAの内部組織の一つで存在そのものが極秘の機関。機関の存在を知るものもだけど、それに所属できる人間は、ごく一部の限られたもののみ。”
”CIAの内部に連なる組織だから、仕事内容はほとんど一緒だけど求められてる能力が違う。”
”この声が聞こえてるって事だから、あたしもその能力がある。 あんたにもわかるでしょ?”
一拍、呼吸を整えてから内側に意識を傾ける。
そして内側だけに響かせるように声を出す。
”ESP。 こんな能力持ってる奴を見たのは久しぶりだ。”
”あたしだってテレパシーで会話するなんて久しぶりよ。”
”…全くだ。”
ユウヤとアオイ。
この会話が二人にしか聞こえないのは互いが互いに知っていた。
どのような言葉を交わしたのかは知らないが、確実にさっきのような警戒の表情だけでなく、落ち着いた表情を見せている。
アオイをよく知っている彼女はそっと微笑んでいた。
「…ところでユウヤさん。用事は何なの?」
その問いかけにユウヤは口を使わなかった。というのも口はすでに紅茶を飲む作業にはいっている。
どこからか取り出した書類を渡すと、なるほど。 ここに来た理由が一目瞭然だ。
「…この仕事をねぇ…。」
「警察はこっちで言い包めておいたから仕事はしやすいはずだ。」
「まぁいいわ。引き受けてあげる。」
そういうアオイの表情は少し明るかった。
良い気晴らしになったのか…それとも…。
ただ先ほどまでの不機嫌そうな表情は打って変わってだ。
「じゃあここに向かったらいいのよね?」
「現場にはテントとか車があるし、まだ野次馬がいるからすぐわかる。」
「わかったわ。」
そういうとアオイはさっさと仕事場へ向かっていく。
オフィスの狭い道をかい通って、もうユウヤ達からは見えなくなった。
「ところで・・・質問があるんだけど」
「何かしら?」
食べ終えた食器を片付ける彼女は無防備にもユウヤに対し背中をむけている。
両手は塞がっていてまさに無抵抗だ。
周りが見張ってるというわけでもない。
これらの状況がユウヤに少しの落ち着きを与えてくれた。
「ハワードと、どういう関係だ?」
「…SEAという組織の一司令官として私と…彼は同期だった。知りあったのはもうずっと昔の話よ。」
「不自然だ。」
「…何が?」
彼女は声色や口調も語勢も変えず、ユウヤの質問に答える。
何一つ不自然な要素は見当たらない。
嘘をついている気配は微塵にも感じ取らせない。
ただ、彼には引っかかる事が一つだけあった。
「あの組織に勤めているならわかると思うが情報漏洩を防ぐため、システムは徹底している。
上にCIAが存在することも、所属している人間も、組織自体が非公式、極秘だ。」
「・・・」
「SEAという組織に所属する全員が一度に集う場もない、捜査員と司令官の1:1の関係が原則だ。
何故…司令官同士のはずであるあんたとハワードが知り合えた?
あそこで働いていたら同じ役職の奴が出会えるわけがない!」
大きく息を吸い込んで、彼女は言った。
「今は・・・まだ何も言えないわ。」
彼女は一拍おいて続ける
「あなたにとっては不本意かもしれないけど、確かに私たちは知り合い同士だった。
互いにどういう仕事をしているとかもわかっていたし、頻繁にコミュニケーションもとれていた。
だからこそ、私も彼も、あの組織の中で長いこと仕事を続けていけたのよ。」
「どういうことだ?」
「人は…誰しもが一人で生きていけるほど強くはない。簡単に折れる人間の方が数多くいる。
組織だって司令官とあなたの様な捜査員とパートナーを組むことを規則としている。
…優秀な手足と優秀な頭脳がタッグを組む。 だからこそ、成果を生みだせてきた。
でも、手足が足りない時だってある。 一人では思いつかないこともある。
ならば、互いに協力し合おうっていう…考えに至ったの。 組織の規則を破ってね…。」
「…その考えで成果を増やせたのか?」
「…その答えはきっとあなた達が見つけるはずよ。」
「…そうか…」
「フフッ…名前はリダ。次からはそう呼んで。」
「…気が向いたらな。」
ユウヤは静かにその場を後にした。