17話

アナログな時計が丁度4の所に針を指す。
赤色の光が車内を真正面から照らした。
サイドミラーは太陽光の反射を映しながらも、後ろで眩しそうにしている二人の姿も捕らえていた。

クスッ

俺は少し鼻で笑う。
すると後ろの子ども達は敏感に反応して目を開ける。
そして、また目を強く閉じる。

子どもと称していいのか?
そんな疑問がふとよぎる。だってこの子達は人じゃない。
この子達はCHAOなんだ。

見た目も仕草も行動も、どこからどうやって見ても。
人間にしかみえないや。
純粋無垢な子どもにしか。


大通りの道路に面した二階建ての家。
かなりの広さをほこるそれは二世帯住宅としても申し分のないスペース。
周囲には建物が少なく、盛り場からも遠い。
それがこの建物をより広く、より大きいものに見せてくれる。
車を適当な位置に停車させると、二人はあっという間に飛び出していった。

「ここが私達のお家なの?」
とラシェル。
「・・・」
言葉は発せずとも目を丸くするゼルエル。

感想は個々違うようだが、その表情はどこか嬉しそうだ。
そして「早く入ろうよ」とせかされる声で俺は家の真正面に位置どった。


「変わらないな・・・・」
記憶の底に埋もれていた光景が頭の中で蘇ってくる。
いつだっけか?最後に出ていったのは?
計算するのもめんどうだ。


断片的だけど、強烈で。

色褪せているくせに、暖かい。


生きてきたなかの記憶の一部、ものの小さな欠片が俺の頭の中で再生される。
初めてここを訪れた時の
感動。
交わした言葉。
光景が。


「どうしたの?」
ふと我に返ると、そこには今の光景が映っていた。
ズキズキと痛む偏頭痛に少し身体をよろむかせながらも、答える。

「なんでもないよ・・・。」

不思議そうにしていたけども、そんな興味はすぐさま忘れ去られるだろう。
二人の興味は目の前の初めて見る建物に全て注がれていく。
表情一つとってもそれは期待に満ちたものだった。


扉を開ければそれは明確になった。
各々の感想が廊下内に響き渡る

「広い広ーい!ゼルも来てよ!」

「・・・・・ん。」

リビングルームへ一直線にと駆け込んでいった二人はもう玄関からは見えなくなっていた。
それを呆れた様子で追っていく。
光景はまさに数年前のデシャブだ。
ただその時の俺はこんな感じの視線を背中に浴びていた。

「ここが・・・ここが俺の家なの?」

「あぁ。もうあんな酷い所にいなくていいんだ。」

「本当に?」

「悪い人たちは皆あいつがやっつけたんだ、何も心配しなくていい。」


思い出に浸りながらリビングに行くと二人の姿は見えなかった。
というより見つけにくい場所にいただけだった。
テレビの前に設けられた大きなソファに腰掛けて、違和感なくくつろいでいた。
自分達と同じ位の大きさのクッションを抱き抱え、埋もれながら初めて座ったソファを堪能しているようだ。
この辺りも昔の俺と行動は大差なかった。

そんな時であった。
しきりに右ポケットが訴えかけてくる。
リズムに合わせて小刻みに震える 何かを着信したようだ。

「もしもし・・・」

「帰還報告をきちんとしてくれ、もう少しで死人として処理する所だったぞ」

「会って早々嫌味か、ハワード中佐。」

「心配はした。それよりも任務を終えたいのなら事後報告をきちんと済ませてからにしろ」

「・・・いろいろと忙しかったからな」

「・・・・まぁいい。ところで今、家にいるだろう?」

「どうして?」

「アパートの大家さんがカンカンだった。うちを洪水みたいにしてくれて とな。」

「・・・俺の部屋に行ったのか?」

「当たり前だろう!一仕事終えたのだから労ってやるのは自然な事だ。」

「仕事の話はよしてくれ・・・」

「大丈夫・・・あくまでも行くのは養父としてだ。」

「・・・・・・なら手土産位頼む。」

会話を一通り終えるともう一度視線をソファにうつした。
どうもさっきから静かすぎる。
近づいてみると、静かな訳だった。


「・・・・すぅ・・・・」


このまま寝かせて風邪ひかれても困る。
ベッドしいて、移動させて・・・
そういえばまだ飯も食ってはいない。


忙しいものだな
とあきれずにいられなかった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第343号
ページ番号
23 / 31
この作品について
タイトル
Lord
作者
キナコ
初回掲載
週刊チャオ第319号
最終掲載
2009年5月12日
連載期間
約1年17日