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かつてワイルドスピリッツには飼い主がいた。

名前はサラ・ホワイト。

ワイルドスピリッツはサラとその家族と共にフロリダの片田舎で生活していた。

サラは野球が大好きで幼い頃から女子リーグに入るため日々練習に明け暮れていた。
ワイルドスピリッツは彼女のトレーニングに毎日付き合い気がつけば彼女のバッティングピッチャーを引き受けるほどになっていた。
そういった経緯もあり、サラは才能に恵まれその将来も有望視されていた。


しかし・・・


サラの両親が事業に失敗し共に蒸発。
生活もたちまち苦しくなり野球の練習どころでは無くなっていった。
ワイルドスピリッツは生活費を稼ぐためにチャオの公式試合参加資格が確立されている日本へと渡り三年間日本の球団に所属、三度の沢村賞に輝くも言葉の壁と肩を壊したことによりあえなく帰国。

しかし、帰国したワイルドスピリッツを待っていたのは地元のゴロツキと化してしまったサラであった。
サラに更正するように勧めるも夢も希望も失ってしまった少女の耳には届かなかった。
この状況に悩んでいたワイルドスピリッツに一つの朗報が届く。
近年、米国メジャーリーグでもチャオの試合参加資格が解禁されたのだ。
ワイルドスピリッツはこれを彼女を更正させる唯一の手段と考えた。

ワイルドスピリッツはすでに老体と化していた体に鞭を打ち厳しいリハビリに耐えてなんとか1イニングまでなら投げられる体にまで回復して見せた。

そして今日の試合をサラも地元のクラブで仲間と共に見ていた。

実況「いま届いた情報によりますとワイルドスピリッツ選手は古くからチャオの公式試合参加資格が認められている日本において三年間だけ活躍していた選手だそうです。元々は先発ピッチャーだそうですが日本での成績は75勝6敗!?通算防御率は0.99!!驚愕です」

次のバッターが左打席に入った。

実況「さぁ、次のバッターは89打席連続出塁&安打で今も記録を更新し続けているディオ・ゲルマズィオ選手です。どんなコースでも打ってくる選手だけにここは敬遠する作戦を取るでしょう!」

スコットは当然、ミットを外に構えようとするがワイルドスピリッツはそれを拒否した。
ベンチもそれを了承していた。

スコットは再度激怒しワイルドスピリッツに詰め寄った。

「なぜだ!?お前の球は確かに速いがそれとこれは話が別だ!!野球の常識を知らないのか!!」

ワイルドスピリッツはスコットに対しはじめて口を開いた。

「考えがあるんだ。あいつには変化球中心で組み立てたい」

スコットは頭を掻き毟るもこれ以上は言う気にもなれなかった。
ただ一言、

「勝手にしろ!!」

そう吐き捨てポジションに戻った。
しかし、三塁ランナーをどうにかしないといけないこともわかっていたスコットは、

(とにかく外だ!!)

とワイルドスピリッツにスライダーを要求しかまえた。
すると打席に立っていたディオは余裕の笑みを見せてこういった。

「明日は俺の顔が一面を飾るぞ。テレビにももちろん・・・」

ワイルドスピリッツが放った一球はディオの思惑通りスライダーだった。

「もらった!!」

しかし、スライダーは更に大きく曲がりスコットは危うくパスボールするところであった。
ディオは完全に捉えていたと思っていただけに苦笑いした。

「ヒュー、すごい変化球だね!!油断したよ!」

スコットは次の配球に迷った。

(内か・・・外か・・・)

ディオはスコットを挑発した。

「あれ?俺に挑戦する気?どうせ当たるんだから止めといたら?」

スコットはその言葉に動揺した。
彼の言うことも一理あるからだ。

「もう一回外だ!!」

しかしワイルドスピリッツはインコースギリギリのフォークで外してきた。
ディオは目を丸くした。

「驚いたよ。あんなギリギリのところをチャオが投げるとはね・・・」

その後ワイルドスピリッツはスコットの要求通り二球続けて外角にスライダーを外した後の五球目。

ディオは歓喜の表情で打席に立っていた。

「そろそろ塁が俺を待ってるからね。行かさせてもらうよ」

スコットは悔しさを表情ににじませるとミットを外に構えた。
しかし、ワイルドスピリッツはこれを拒否。
ワイルドスピリッツは一喝した。

「ど真ん中に構えろ!!勝ちたくないのか!?」

一喝した後、ワイルドスピリッツは予告どおりど真ん中めがけて投げた。

ディオは歓喜の雄たけびを上げた。

「うぉおおおおおおおお!!わざわざ予告してくれてありがとうね!!明日のテレビでのコメントを考えて・・・」

ディオがスイングの動作に入った瞬間、白球はすでにミットの中に納まっていた。
電光掲示板は171Kmを記録していた。

受けたスコットも驚愕しディオにいたってはあいた口が塞がらない始末だった。
ワイルドスピリッツはにやけていた。

「明日のコメントが・・・なんと?」

ワイルドスピリッツの茶化す態度にディオは激怒した。

「ちくしょおおおおおおおお!!」

ワイルドスピリッツはひと呼吸入れると心で念じた。

(サラ・・・努力すればチャオにだってどうにかできるんだ。人間のお前なら尚更だ・・・)


ワイルドスピリッツは握りを確認すると腰を最大まで捻り

(だから、明日に希望を持て!!)


一球を投じた。

それは130Kmの普通の直球だった。

三塁ランナーも走り出した。


しかし、我を忘れていたディオはそれを空振りしてしまい


飛び出していたデーモンJrは三塁と本塁で挟まれてしまい・・・


9回表は終了した。


(うぅ・・・、ちょっと無理しすぎたかな・・・)

左肩を押さえながらベンチへと下がるワイルドスピリッツに全米中が拍手した。

そして、


その様子をテレビで見ていたサラにも一筋の涙が頬を伝っていた。


その後、9回裏の攻撃で4対3でタイガーンツが勝利しチャンピオンリングが各選手に授与されたがワイルドスピリッツは既に姿を消していた。

その後彼の姿を見た者はいない。

しかし、彼の飼い主であるサラ・ホワイトは再び努力した末、

アメリカ女子野球リーグ界を代表する大スラッガーへと成長していった。


                         終わり

このページについて
掲載号
週刊チャオ第342号
ページ番号
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この作品について
タイトル
ラスト・マウンド
作者
Chao Forscher
初回掲載
週刊チャオ第342号