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時は198x年。
米国メジャーリーグはワールドシリーズ迎え
全米中は熱狂の渦に包まれていた。

米国各地で激闘が繰り広げられた末、今年このシリーズに出場しているのは
スムブランコシャイアーンズとトロデトロイメンタイガーンツ。

全七戦あるうち四勝したチームがその年の全米チャンピオンである。
特にこの年のワールドシリーズに出場していたチームは実力が拮抗し、
互いに三勝三敗の一点差ゲームで最終戦をタイガーンツスタジアムで迎えていた。

この日も3対3の同点で8回裏を終了し9回表シャイアーンズの攻撃が始まっていた。

実況「さぁ、ワールドシリーズ最終戦!!ここまで3対3の同点で迎えた9回表、この回のシャイアーンズの先頭バッターは俊足巧打のデーモンJr。対してタイガーンツのピッチャーは60試合登板して防御率0.32、タイガーンツ絶対的守護神のマーク・フォード!!」

フォードはタイガーンツの絶対的な守護神であり抑えのエースである。
この日も早速154キロの直球で2球ストライクを取った後であった。

「ここで一球下に外すか・・・」

フォードが次にフォークボールを放った直後であった。
高めにすっぽ抜け、さらに人差し指の爪が剥がれ飛んだ。
さらにバッターのデーモンJrはそれを見越し強烈な一打を左中間に放った。
フェンスに直撃し、左翼手が返球にまごついた間にデーモンJrは三塁を落し入れ
一気にピンチを迎えた。
同時にフォードの激痛による悲鳴がマウンド上にこだました。

ベンチの奥に控えていたタイガーンツ監督、フィリップ・アルバーソンは不測の事態に天を仰いでいた。

「参ったな、いま肩を作っているピッチャーなんていないぞ」

しかし、そこにピッチングコーチが現れて監督にこう進言した。

「居ますよ。1人・・・いや・・・」

・・・

実況「さぁ、面白いことになってきました!!負傷退場となるであろうフォードにはかなり気の毒ですがこのような状況でタイガーンツの名将アルバーソン監督はどういった采配を見せてくれるのでしょうか!!おっとアルバーソン監督が主審に何か言ってますね!おそらくはピッチャー交代ではないかと思われます。」

ウグイス嬢「選手の交代をお知らせします。ピッチャー、フォードに変わりましてワイルドスピリッツ。背番号16」

「誰それ?」

「聞いたこと無い」

会場がざわめきだしそのざわめきと共にリリーフカーに乗って現れたのは縦じまのユニフォームに身を包んだオニチャオであった。

選手の正体が判明すると球場を埋め尽くす地元ファンから大ブーイングが起こった。

「ここはチャオの遊び場じゃねーんだよ!!ガーデンへ帰れ!!」

「玉遊びじゃねーんだよ!!」

実況「おおっとこれは何かの演出か?それともついに名将も血迷ったか!?」


大ブーイングと失笑の渦のなかでワイルドスピリッツと呼ばれるチャオは投球練習を開始しようとしていた。

しかし、横で構えていたピッチングコーチの元にキャッチャーであるスコットが激怒して近づいてきた。

「俺たちに試合に負けろとでも言うのか???」

ピッチングコーチはただ一言、

「しっかり構えてろ!!そして余計なことは考えず最高のリードを見せろ!!」

と一喝した。

スコットはしぶしぶ了承しポジションに戻った。

「とりあえず直球を・・・」

おもむろにミットを構えた瞬間。

ワイルドスピリッツは腰を限界までひねる独特のフォームから一気に左手で白球を送り出すと電光掲示板に157Kmと表示された。

「ぐぉ!?」

スコットもこれには動揺し機械の故障を疑った。

「つぎは、スライダーを・・・」

もちろんこれも冗談半分であった。

するとこれも予想をはるかに上回る変化がついたスライダーが来た。

スコットは確信した。

「これならいける・・・」

と。

しかし観客は未だにワイルドスピリッツの凄さに気づいていない。
そしてチームメイトすらも。

スコットは試合を再開する前にチームメイトを集めた。

そしてチャオの登板に不満を持つチームメイトを必死でなだめ何とか試合を続ける気にさせた。

実況「さぁ、フォードのアクシデントから少し混乱がありましたがようやく試合を再開する模様です。アルバーソン監督はワイルドスピリッツでいく模様です。スタンドからはアルバーソン監督に対するブーイングが巻き起こっています。次のバッターは今年76本のホームランを放ってホームラン王に輝いたウォール・マクレガー!!今日はまだホームランは出ていません。ここでひょっとすると試合が決まる可能性も高いです」

ウォールは高笑いしながら右打席に入るとスコットにこう言い放った。

「がははははははは!!!!!とうとう遂に万策尽きたか!!安心しろよこの俺が試合を決めてやるから!!」

余裕の表情を見せるウォールにワイルドスピリッツはインコースギリギリの直球で挨拶した。
電光掲示板は159Kmを記録した。

大ブーイングを起こしていた観客もようやく凄さに気づきあたりは静まり返った。
そしてワイルドスピリッツはウォールにこう言い放った。

「お前は、俺のボールにかすることもできない」

ウォールはこの発言に激怒しこう言い返した。

「だまれ!!お前程度のボールを投げる奴ぐらい何人も知っているんだよ!!偉そうな事を言うんじゃねぇ!!」

ワイルドスピリッツは再び振りかぶるとこう言い放った。

「なら教えてやるよ。決定的な違いをな」

次に放った直球は163Kmを記録した。
ウォールはストライク球のそれに反応することもかなわなかった。


観客は動揺し皆が大きく唸った。

ウォールは我に返った

(落ち着け、例え球がいくら速かろうが・・・)

動揺しているウォールにワイルドスピリッツはスコットの要求通り下に外す球を放った。

ワイルドスピリッツが放った球はフォークボールであり、ウォールはあっけなく三振に倒れた。

実況「おおおおおおおおおっと!!今年のホームラン王は突然現れた謎のチャオのピッチャーによって三球三振に倒れた!!いったいこんな球を投げるピッチャーが今までどこにいたんだああ!?」

観客たちはうれしい誤算に狂喜乱舞した。

「いけえええええええええええ!!!赤いやつ!!!」

「俺たちの夢を叶えてくれ!!」

マウンド上のワイルドスピリッツは静かに肩で息をした。

(サラ・・・。見てるか?俺はまたマウンドに戻ってきたぞ)

このページについて
掲載号
週刊チャオ第342号
ページ番号
1 / 2
この作品について
タイトル
ラスト・マウンド
作者
Chao Forscher
初回掲載
週刊チャオ第342号