交差点
駅前の排気ガスがこもる交差点。
喫茶店に、そのコはいた。
そして、俺と一緒に歩いているこいつ。
なんだかんだ言って面倒見が良いらしい。
「あのコはチャオが好きなんだってさ。
私と同じでね。」
「だから、こんな人形・・・。」
「がんばって、渡してくるのよっ。」
俺は、自分より小さいそいつが、俺を
じっと見上げているので少し目をそらした。
・・・こんな表情でこんな性格。
それが「こいつ」なわけだ。
今回も俺によけいなお世話を・・・。
俺はこいつのせいで小遣いをこの人形に
全額を注ぎ込んだのだ。
でも、実はこのチャオの人形を探したとき、
俺は一番幸せだったとおもう。
いろんな店をこいつと二人で探し歩いた。
そして、ある店でこれがちょこんと座っていたとき、
こいつは満面の笑みで喜んだ。
そう・・・俺は心で叫んだ。
ホントは
あのコなんて
どうでも良い。
このチャオの
人形かって、本当は、
本当は・・・!
俺は雑踏が一斉に動き出したのを、
肌で感じた。
信号は青。
俺だけが歩き出した。
反対の歩道まで行き着くと、
俺は元の歩道にいた「こいつ」に
チャオの人形を投げつけた。
水色の星が、放物線を描き、
道行く人々の頭上を交差していく。
「こいつ」はあわてて飛んできた人形を
小さな体で必死にキャッチする。
俺はその行動を黙ってみていた。
「ちょ・・・。なんで・・・。」
俺は何にも言わずに踵を返した。
俺はあのチャオの人形のように、
ふっと笑った。
あのチャオみたいにあいつを撫でたら、喜ぶかな。
なんて思いながら。
やがて雑踏は俺の姿をかき消した。