~1~
恋の神様
その日は台風が来ていた。
電車動いててラッキーだったけど駅出てビックリ。
すごい横なぐりの雨風に傘なんてまともにさせないし制服びしゃびしゃ~。
一旦家に帰ったらバイト遅れちゃうしこのままいくしかないかな~。
同じコンビニなら駅前のコンビニにバイトすればよかったと今頃。
あーん、こんな日はバイト休みたいけど、今日休む子の代理頼むって店長からメルもらっちゃってお人よしの私は気安くOKしちゃったんだよね。
…それに。
彼が今日こそお店に来るかもしれないから…。
名前も知らないお客さんにまさかこの私が一目惚れするなんて。
あれは忘れもしない先週の水曜。夜の九時ぐらい。
彼はふらっと入ってきた。
他にお客はダレもいなくて。私はヒマヒマだったから彼ばっか観察しちゃった。
すらっと細い背丈で長い前髪がサラサラ片目にかかる、芯の強い瞳で顔がめっちゃタイプ。スカイブルーのシャツがすっごく似合ってる~。
彼はお弁当コーナーとかパンコーナーとかうろついて、けど何もカゴに入れないでサプリメントコーナーにいって…そして私のいるレジに来てためらいがちに話しかけてきた。
「あのさ、ペットが食べれるもの探してるんだけど」
「え!? ぺ、ペットってどんな?」
急に変な質問してくるからマジビックリした。こんな質問されたの初めてだよ。エサのわからないペットってナンだろ?って一瞬パニクッた。まさか蛇とかの爬虫類とかタランチュラとか?ってソレハナイカ。
彼は私の前に携帯を差し出して写メ画像を見せた。
「コイツなんだけど、さっき拾ったんだ。ネットで調べたけどわからないんだよな。君コイツが何食べると思う?」
「へぇ~、水色でぷよぷよつやつやでちょーかわいい~。どっかで見たキャラクターのリアルバージョンぽいね~。これってほんとに生き物なんだ」
「ウチのアパートの裏のダンボールの中で泣いてたんだ。どうやらお腹が空いてるみたいなんだよね~」
「んーわかんないけど、肉とか魚とかテキトーにためしてみて食べれるもの探るしかないかなぁ、ウチペットフード扱ってないからなぁ」
「だよな~。生きてるモノしか食べなかったらお手上げだけどサ」
「私のカンだと、こんなカワイイ動物はきっとプリンが好きに違いない!」
「え。プリン…」
そう言って微笑んだ彼の笑顔に心臓射抜かれてしまったのだ。
「ありがとな」
彼は適当にいろいろ買って店を出て言った。
私ったらぼーっとしちゃってレジ処理どうしたのかも覚えてない。
それからというもの頭に浮かぶのは彼のはにかんだ笑顔と彼の声、彼の指、彼の…。
こんな気持ちはじめてだよ~。
中学の時コクられて付き合った奴いてドキドキして楽しかったけどこんな苦しい気持ちにならなかった。
んでフレに話したらこれがホントの恋らしい。
けど、けど、あれから彼に一度も会えない~。このまま会えないのかもと思うと涙でちゃう~。
彼に会えるなら台風なんかなんでもないもんね。
恋する乙女のパワーはすごいんだから!