第1話
ここは、チャオが文明を発達させている世界。
まあ、人間世界でいう中世程度ではあるが。
それでは、物語の世界に耽って頂くとしよう。
鐘の鳴る日まで・第1話
『道の始まり』
とある街。
市場は今日も賑わう。
が、彼らは皆、カラ元気なのである。
この街を統治している公国が内部分裂により弱体化、隣の大帝国により滅亡寸前。
街人A「あの帝国、自分の民族だけ優遇して、他のチャオにはひどい事するらしいぜ。」
街人B「マジかよ・・俺逃げよっかな・・・」
街人C「逃げようにも、逃げる場所なんてある?西へ逃げりゃいいんだろうが、あいにくここは東の端だ、逃げ切る前に追いつくだろうよ。」
街人D「こうなったら、あの伝説に頼るしかないんだろうな。」
街人B「伝説?」
街人C「知らねえのか?この街が危険にさらされた時は、遥か東にある『クリルの鐘』を鳴らせば、この街が救われるという・・・」
街人A「何でんな遠い場所に鐘を造ったんだか。」
街人D「この公国も昔は強大で、あそこあたりまで攻め入ったらしいな。」
街人B「でもクリルって・・・ひょっとして帝国の首都じゃねえか?」
街人C「ああ。連中があの伝説を知った日にゃ、鐘はないだろうね。」
街人D「でもあの鐘、行方不明なんだろ?」
街人A「あ、大公だ。あの大公も気が狂ってるね、僅かな軍で大軍に対抗するつもりだよ。」
公国の統治者、ゲルフ大公。
誰が見ても無謀な戦争に次々と挑む狂信家で、公国衰弱の一因である。
そして今回も、6000人の軍で、帝国の30万の軍隊に挑もうという目論見。
街人B「ところで、大公の周りにいる4匹のチャオは?」
街人C「ああ、大公の側近中の側近、『ゲルフの4つの刃』。
クルス、メシア、マルト、スーリヤ。」
街人D「大公は最強の4匹だと叫んでるが、メシアとスーリヤは女性、実際の戦闘での活躍もナシ。」
街人A「しかし、また何故いつもは城ん中に篭ってる大公が外に出てくるんだ?まさか大公自身が戦争に・・・?」
街人C「そりゃ無ぇだろ。にしても変だな・・・?」
暫くすると、大公が群集の前で止まった。
そして、声高らかに喋りだす。
大公「今回、突然ではあるが、皆の前で重大な発表をしたいと思う。
我が公国には、クリルの鐘の伝説が残っており、その伝説は未だ、他国に洩れた事はない。
これも皆、我が公国の繁栄のおかげである。
さて今回、我が軍はあの帝国に挑む訳であるが、その隙を狙って、あの鐘を鳴らしてみようではないか。
クリルに秘密裏に、この4匹を送り、鐘を鳴らして、無謀にも我が公国に迫りつつある帝国を滅ぼすのだ。」
街人C「無謀なのはどっちなんだか。」
街人B「しかし4匹って、あの4匹だろ?いいのか?」
街人D「何かあったんだろうな。さもなきゃ、こんな事するはずがない。」
大公「鐘が鳴った暁には、国を挙げての祝賀祭を行う。準備をしておくように!」
そう宣言すると、軍隊を先に進めて、自らは4匹を連れて城に戻った。
街人A「大公、もう完全に鳴らした気だよ。いいんか?」
街人C「ま、やらせとけ。嘘はつかないらしいから、もし鳴りゃ万々歳さ。」
街人D「駄目元だな、完全に。」
・・・・・城内・・・・・
大公「貴様等、先の戦争ではよくもやってくれたな。不手際でわしの部下を死なすとは、なんたる不始末。」
クルス「申し訳ございません・・・」
大公「民衆の前ではあのように言っておいたが、事実上の流刑、そして死刑だ。分かってるんだろうな。」
メシア「承知しています。」
大公「もうよい、さっさと行けっ!」
マルト「はっ。」
・・・・・・・・・
クルス「あの狂信者めが。行きゃいいんだろ、行けば。」
メシア「こっちも歓迎するわ、あんな大公の前で頭下げてるよかよっぽどマシ。」
マルト「んで、結局どーすんだ?鳴らすのか、鳴らさないのか。」
スーリヤ「帝国に下るってのも手だけど・・・それも面白くないし、鳴らしてくるかぁ・・・。」
マルト「あの大公に一泡吹かせるって訳か、なかなかだな。」
クルス「話は決まった、さっさと逃げるぜ。」
日が沈む頃、彼らは街を抜け出した・・・・