第十六話 ~ユウウツの森~
受験者達は、トンネルを抜け薄暗い森を走り続けていた。
空が木々の枝や葉で覆われ、昼なのか夜なのか分からない。
地面はぬかるみ、受験者達の体力を奪う。
全体に立ち込める悪臭は、いっそう森の雰囲気を悪くしている。
遠くから聞こえてくる鳥や獣の鳴き声が受験者達の走る音と共に森に響き渡る。
不気味にうねる様に伸びた木々の幹や枝が、襲い掛かるように覆いかぶさっていた。
走り始めてから数時間が経過し、先頭と後続の差が大分開き始めていた。
「はあ、はあ、はあ・・・・」
最後尾に近い集団のチャオたちが息を切らして走り続けていた。
いつまで走り続けても似たような景色ばかりで、今どこを走っているのか、先頭までどれぐらい離れているのか。
彼らは全く状況が把握できず、精神的にも肉体的にもギリギリだった。
一人、また一人と脱落していき、その場に倒れた。
既に、後続グループの三分の一程度が脱落していた。
一方、ユリカゲ達は先頭グループに食らいつき、受付係のチャオを視界に捕らえていた。
ユリカゲ、シラウズ、ベニマルは涼しい顔して走っていたが、アスカナは走るのが苦手なので顔を歪めていた。
「ぜえ、ぜえ、もう飛ぼう、俺。」
痺れを切らしたようにアスカナが羽ばたき始める。
完全に飛行しているわけではないが幾分かは楽になったようだ。
それを見てユリカゲがため息をつく。
「あーあ、出たよアスカナの羽ばたき走り。」
「? なんだそりゃ」
シラウズが興味を持ったようだ。
「こいつの癖でさあー、はしんのに疲れると 羽ばたいて身体を軽くしようとするんだよ。
少しぐらい速くなるけどね。」
「へえー。」
ユリカゲが言ったとおり、アスカナは少しきつそうな表情が消え、ユリカゲ達に追いついてきた。
「それより・・・ここはユウウツの森だな。
この森の木の樹液には嗅いだ者を憂鬱にさせる効果がある。
あんまり深く呼吸するなよ。」
ユリカゲがアスカナに注意を促す。
「ああ、分かってるよ。あっちには効果覿面みたいだけどな。」
アスカナの視線の先には青い顔をした受験者達が走っていた。
とてもだるそうにし終いには走るのをやめてしまった。
「ひょー怖え怖え。」
急に前のほうから怒声が聞こえてきた。
「おらあーーっ!どけどけえーーっ!」
大柄のチャオが、他の受験者を蹴散らしながら走っている。
他の受験者達は迷惑そうによけて走っていた。
「困ったやつだなー。よっし、俺が片付けてやる。」
アスカナが鼻息を荒くする。
それをユリカゲがなだめる。
「やめとけやめとけ。ユウウツの木の効果にはまっちまうぞ。」
「やめろ!」
一人のチャオが叫んだ。
トキだ。
「ああ!?うるせえな。誰を倒そうが俺の勝手だろーが!」
そのチャオが一層怒鳴る。
「それ以上やると、黙っちゃ置かないぞ!」
そういうと、トキは高く跳んだ。
空中で一回転して着地する前に巨漢チャオの両肩を掴み、着地すると同時にねじって巨漢チャオを投げ飛ばした。
「ぬおわああっ!」
巨漢チャオは激しく回転し、脇の茂みに頭から突き刺さった。
「すげえ・・・あのトキってやつ、強いんだな・・・」
アスカナが目を丸くして言う。
もうしばらく走ると、森を抜け、大きな川に出た。
「今度は川かよ!?」
ユリカゲがいやそうに叫んだ。