第八話「真の情報」

目の前にはヴァークロスの顔が広がり、頭には悪夢が広がる。
この状況を最悪と言わずして何と言うだろう。
ヴァークロスは息を漏らし、今まさにウィリーシスに飛びかかろうとしている。

その時だった。

『ヴァークロ･･･ス･･･そノ者はまダ壊すナ･･･。』

マザーの声だ。

ヴァークロスは残念そうにウィリーシスから顔を背け、尾を翻しその場に座り込んだ。
残念そうなのは肉食動物の本能からだろうか。
それと同時にウィリーシスも緊張の糸が切れ、へなへなと力なく座り込んだ。


～正面玄関～

「何デうぃりーしすヲ助ケル気ニナッタちゃお？」
『助けル･･･？我は試･･･してみタ･･･い事ガアルから生かし･･･ておイたダけだ。』
「試シタイ事･･･？」
『彼が真実･･･ヲ知ってモ平･･･気でイら･･･れるカどうかダ』
「真実･･･？」


～非常通路～


突然ウィリーシスの横の壁が開き、道が出来た。
来い、という意味だろうか。
とりあえず、まだ上手く動かない足にムチを打ち中に入って行った。
その様子をヴァークロスはまた残念そうに見つめていた。

中には見知らぬ機械がひしめき、各々マザーの意思で動いている。
ここだけは大丈夫だったようだ。
部屋は六角形をしており、壁にはコンピュータがギッシリだ。
その中央に、塔のようなものがあった。

『こコは･･･我ノ心臓に値･･･すル場所だ。』
「何故、僕をここに導いたんだ？」
『そなた･･･二見てもら･･･いたイものガある･･･。
　中央のメ･･･インコンピ･･･ュータノプリン･･･タを見ろ。』

中央の塔の様なものはメインコンピュータだったらしい。
プリンタは勝手に動き出し、何かを印刷していった。

『あル者が横流シし、オモチャオβ-726に入っ･･･タ情報だ･･･。読んデみ･･･ロ･･･。』
「何々･･･？『生物兵器の開発計画』！？」
『ソう･･･。ハル･･･ルハッツノ極秘計･･･画だ･･･。
　大統領も賛同し･･･てイる。』

ウィリーシスは続きを読み上げていく。

「『我がハルルハッツの物資は限界に達し、
　　他国からの輸入がストップすれば終わるほか無い。
　　そこで「他国に攻め入る」事を提案する。
　　だが、戦力はオモチャオだけというのはあまりにも心細い。　
　　故にオモチャオに加え、<生物兵器>を開発し、戦力増加を図ろうという計画である。
　　何故生物兵器なのか、という理由は怪しまれるので工場が作れない為。
　　理化学の実験場なら国民も怪しまないだろう。
　　生物兵器の概念は以下の通り。
　　
　　1.中央情報センターの野生動物のDNA情報を秘密裏に連れて来たチャオに注入し、強制的に変態させる。
　　（戦闘に効果的な動物のDNA情報を使用することを勧める）
　　2.各オモチャオに設定されてある「進化プログラム」にDNA情報を送信し、変化を見る。
　　　 オモチャオは変化合金（※）で作られている為、特殊な電流を流すことにより変形が可能。

　　1は、万が一国民に情報が伝わってしまったことの時を考え、
　　最終手段とする。
　　2のオモチャオは、マザーがいつでも情報送信を送信出来るため、いつ、どこでも変形が可能であり、
　　またマザーによって全てのオモチャオを統一出来る。
　　マザーは都合の良い指揮官であり、<道具>である。』」


･･･何てことだ。


全てを読み上げた時、ウィリーシスに悲壮感と疲労感と国家への怒りがこみ上げてきた。

『･･･こレが我が自分･･･を見失ッた理･･･由ダ。』
「これは･･･誰かに見せたのかい？」
『いいヤ･･･。メンテナン･･･スの時ハ別の･･･場所ニ送信しテ隠しておい･･･たノだ。』
「壊滅させた都市は？」
『生物ハ狙･･･うナと指･･･令をオモチャオに出し･･･てオいた。
　それ･･･にオモチャオは･･･暴走はシておら･･･ん。
　ソなたが今見タモノと同･･･じものをオモチャオに見せたら、
　自分の意思デ国家ト戦うことを決意シたのだ･･･。』
「さっきの『チャオを廃棄する権利がある』というのは？」
『もちロん･･･。国家ノチャオ共のコト･･･だ。』

本当の敵はマザーでは無い。そうウィリーシスは確信した。

「マイク･･･あるかい？」
『アあ･･･。』

メインコンピュータの側面が静かに開き、中からはマイクが出てきた。

『α-238、聞いてた？本当に悪いのはマザーじゃない。国だ。
　このままじゃ寝覚めが悪いんで、上の奴等落としに行かないか？
　証拠ならあるんだ！それにこっちにはオモチャオという力強い見方もいる！だから･･･。』

α-238は、流れるはずの無い涙を流しながら答えた。

「イイちゃお！まざーヲ悪者ニシタアイツラヲブッ飛バスちゃお！」
　　






その涙は悲しみの涙では無く、マザーの無実が証明された喜びの涙だった。






涙は音も無く床に落ちた。







そして時は流れ、西暦4598年･･･。