前編
「悪の帝王め・・・くらうちゃお! お水すぷらーっしゅ!!」
そのチャオ『チャンタン』がそう叫んだ途端、チャンタンの腕から
『悪の帝王』と呼ばれた黒いもやもやとした影に向かい、巨大な水流が放たれた。
ブシューッという大きな音を立てて、水流は『悪の帝王』に直撃した。
「グギャアアアアア!!」と絶叫を上げたのち、悪の帝王はチャンタンをにらみつける。
「よくもやったな、チャンタン!!」
黒い影からぎょろりと黄色く光る目をのぞかせ、『悪の帝王』は言った。
そして、言うと同時に、その黄色い目から不自然なほどにピンク色がかった炎を発した。
「ブラック・フレイム!」
黒くもないのにそんな技名らしい。
しかしそんなピンク色がかった炎は、まっすぐにチャンタンめがけて飛んでくる。
避けようとするチャンタン。しかし思いのほか勢いは強く
ブラック・フレイムはチャンタンの胴体に当たった。
体がメラメラと燃え上がり、チャンタンは悲鳴を上げた。
「うわああん!熱いちゃお~!」
ガクリと倒れこむチャンタン。しかし、
あまり苦しそうではないように見える。何故か炎もすぐに消えた。
「う・・うう・・・」
火傷は全く見当たらない。
だが、チャンタンは起き上がれなかった。
─このまま・・・死んじゃうちゃおか?─
そんな考えが頭をよぎり、一緒に遊んだ友達のゼリョーヌ君達の顔が思い浮かんだ。
それと同時に、意識が遠のいていくのを感じた。
「・・・・・・」
『・・・タン・・』
ふいに、ゼリョーヌ君の声がしたような気がした。
「・・・?」
『・・・ャンタン・・・・チャンタン!!』
「!!」
ガバっと頭を上げると、そこにはいつのまにか、
悪の帝王に捕まり、チャンタンに必死で呼びかけるゼリョーヌ君がいた。
「チャンタン!助けてちゃお~!!」
友の呼びかけに、
いつからそこに居たのか、なんてことは全く気にせず
「ゼリョーヌ君!!いま・・・今、助けるちゃお!!」
と、チャンタンは答える。
「フン、まだやる気か?」
悪の帝王が鼻で笑い、もう一度チャンタンに向かって炎を放った。
「くらえ!!」
しかし、チャンタンはさっきとは明らかに違う素早さで横に跳び、
軽々と炎を避けた。
「な、何だと!?どこにそんな力が・・・!!」
急なチャンタンの変貌にうろたえる悪の帝王。
そして、チャンタンが両手をピンと真っ直ぐ上にあげ、手に力を込めながら言った。
「悪の帝王!!これで・・・これで、トドメちゃお!」
チャンタンの両手が青く光り輝きだす。
「ひっさつ・・・お池あたーっく!!」
そう言い、チャンタンは両手を振り下ろした。
その途端、チャンタンの足元から巨大な水の壁が現れ、洪水のように悪の帝王を襲った。
一緒にいたはずのゼリョーヌ君は、都合よくいつのまにか居なくなっている。
「ウ、ウグォオオオオオオオオオオオオッ!!」
ドバっと押し流され、体が光り始める悪の帝王、
ぐねぐねと蠢きながら、チャンタンをじっと睨みつけ、吼える
「お・・・覚えてろチャンタン!!
この恨みは・・・必ず返すぞおぉオオオオオオッ!!」
言い終わると同時に、光は急激に大きくなり、
悪の帝王は白い光を上げて爆発し、『ドドォオオオオオン!!』と轟音を上げ、
粉々に砕け散った。