It's a sunny day

多分、いつか自分は消えるだろう。
俺がこの世界から消える前に一つだけ伝えたいことがある。
それは俺の子供、君へ言いたいことなんだ。


チャオ。


俺はそういう生物で生まれてきたことを誇りに思うよ。
でも、飼い主はダークになった俺を良くは思ってくれなかった。
だから、ずっといじめられ続けたんだ。
寝ているときには飛ばされ、食べ物は取られ続けた。
どんなに嫌そうなぽよを出しても、それが逆におもしろがられ続けた。


君のお母さんは逆だった。
ずっと、天使で一番可愛いチャオとして可愛がられ続けた。
飼い主の愛をたくさん受けて、
日差しの眩しい庭の下、ずっと可愛く育ち続けたんだ。


俺は彼女に一生会うことはなかったはずだった。
でも、色々ガーデンの関係上、
俺と彼女は同じチャオガーデンに移されることになった。


最初は話さえもしなかった。血がつながっていないんだから。
昔差別の話があったろう?
あんなもんさ。彼女が白人だとしたら、俺は黒人みたいなもの。
人間はその違いを乗り越えようとしているけど、
俺らにとって、二つは全く違う世界にいるチャオなんだよ。
だから、昔の人間みたいに、その対立は深かった。良く覚えている。


でも、彼女はどこかでねじが一本はずれていたみたいだ。
失礼な言い方だよね。でも本当に俺はそう思ったんだ。
こんなにも薄汚れていた俺に、優しさを見せてくれたんだから。
薄汚れていた?
あぁ、薄汚れていたさ。飼い主の靴の痕が痛々しく残っていた。


「どうしたの?」彼女の俺に向けての第一声はそんな感じだった。
彼女は傷を知らなかった。
いや、むしろ、知るという手段がこれまでになかったようだ。
当たり前だろう?
これまで散々なくらい、良い生活をしてきたんだから。


彼女が気持ちよく寝ているとき、俺は蹴られ続け、眠れない。
彼女が小食ながら何かを食べているとき、俺は腹ぺこで倒れそうになった。
…最初から、俺は彼女が好きだったわけじゃない。
俺は、正直、嫌いだった。憎かった。何か傷を付けたかった。


でも、結局、憎くても、彼女は“その感情”さえも知らないから、
俺に近づいてきた。
バカみたいだ。本当に、バカみたいだと思った…けれど、
俺はそうやって近づいてくれるだけ、嬉しかったんだ。
なんだかんだ言っても、近づいて、俺を気にかける人がいることは何よりも幸せ。
俺はいつの間にか、彼女を好きになっていた。


「なんだこのチャオ!」飼い主はビックリしていたよ。
その当時、チャオはストレス解消用のチャオ、ダークと、
癒し専用のチャオ、ヒーローしかいなかった。
なのに、そこにはいつの間にか、ハイハイをして、
いつかの、あの彼女にゆっくり近づく、


そう、青い、チャオがいたんだ。


…君のことだよ。


俺は君には近づけなかった。
もしも俺と彼女の子供だってばれたら、君かってただじゃすまないだろう?
だから、君にはもう、この手紙でしか会うことは出来ないだろう。
でも、それで良いんだ。
俺の顔を見なくとも、その端正な顔は、お母さん似だよ。
だから、君はお父さんなんか気にせず、生きていけば良いんだよ。


あぁ、そして、もう一つ、言いたいことがある。
この手紙を読むときには、僕はもうこの世界にはいないことだ。
君がどんなに僕に会おうと探しても、僕はこの世界にはいない。


人間の身勝手さ。
飼い主を愛しく思うチャオは転生できる。
飼い主を憎い俺は、消えて、死ぬんだ。
だから、もう君と会うことは出来ないだろう。もう二度と。会えないんだ。


多分、お母さんは泣くことだろう。
これまで受けたことのない、心の傷を、初めて体験するだろう。
…君がお母さんを、助けるんだ。
幸い、君は黒くない。
青い、空のような、綺麗なチャオだ。
だから君は、お母さんの傍にいて、彼女を助けてあげるんだ。


たまには憎く思うだろう。
お母さんのことを狂ってるなんて思うかもしれない。
でも、君はそのお母さんから生まれてきたんだよ。
どんなに、誰かを好きになるときも、誰かを憎くなるときも、
君のお母さんは、君をいつも見てくれるのは、君のお母さんだけなんだ。
だから、助けていくんだ。
俺ができなかった、愛情を、彼女に与えてあげるんだよ。


もう一度言う。
君はお父さんを気にしなくて良い。
その青い身体で、誰にも真似できないような身体で、
たった1人の、真似できない一生を送っていくんだ。
君に似た、その青い身体に似た、青い空の下で、生きていけば良いんだよ。


…人間は良い奴だよ。
いじめられていた俺がそんなこというのもおかしいかもしれないけど、
君にたくさんの夢をその綺麗な瞳の前にちらつかせてくれる。
彼らのポケットには、夢がつまっていて、いつもそれをしまって微笑む。
誰もが、この世界で、悪者になるために生まれたわけじゃない。
誰もがどこかで、君を助けてくれる。
だから、恨まないで、君はいろんな人と出会って、愛して、好きになって、
この世界を生きていけば良いんだよ。
俺の恨みなんて言う、そんな古い荷物は置き捨てて、進んでいけばいいんだよ。


俺は今何も待っていない、死の世界に行くけれど、
ありがとう、君のお母さんを好きになって、
君という宝物をこの世界に残せたことが、
俺の、何よりの幸せだったんだ。


ありがとう。


この青い空の下で、いつかまた、逢いましょう。


I wrote it in a day —It's a sunny day...


今日は晴れ 太陽に近づいていく僕は
何を考える? 
明日にでも帰ることができたら
今度こそは 離れないよ 約束してあげる

明日も晴れ 明後日も晴れ きっと晴れ
僕が帰ってくる日にも 晴れていたらいいね

麦わら帽子 かすかに見える笑顔で
あなたは小さな石を海に投げて
風が吹いて 髪が揺れて 僕は立っている


fin

この作品について
タイトル
It's a sunny day
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第344号