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さて、仕事は完成したしたので、俺はのんびりと腰を下ろした。
一緒に働いた仲間も、徐々に解散していく。気が付けばもう夜だ。
「聖誕祭・・・か」
さっきは「誕生日だから」などと答えはしたけど、それだけでは、答えとして不十分だろう。
この日は生まれた日ではなく見つけられた日。
まだ赤ん坊だった頃のことなので覚えてはいないけど、今の家の御主人に拾われて。
捨て子だった。
聖誕祭で町が陽気な活気に包まれていても、むしろそれを見ると、ふと考えてしまう。
記憶にはまったく残っていない、以前の生活や・・・家族や・・・
仲間は去り、作業場を照らしていたサーチライトが消された。
ここは近年再開発が進むステーションスクエアの町外れ。
都市の中心部から漏れてくる明かりを除けば、真っ暗だ。
御主人には、本当に感謝している。せめて精一杯の感謝を送りたい。
そう、聖誕祭だけでも。
このボランティアに参加したのは、そんな気持ちがあったからかもしれない。
海から吹き込む夜風が涼しい。
いや、本当は寒いのだろうけど、作業が終わって火照った体にはちょうどいいぐらいだ。
夜空を見上げる。周りが暗いせいだろう、いつも以上にきれいな星空だ。
と、そのとき、俺は空に、なにやら怪しいものを見つけた。
市の中心部からオレンジ色に光を発する何かが、ふらふらと漂ってくる。
UFO?そんなバカな。
その光はまもなく俺の真上へやってくると、そこでぷしゅんと音を立てて落ち始めた。
え
オレンジ色の何かはまっすぐに自分に向かって落ちてくる。
なんだなんだ!?
あわてたときには既に、その何かは俺の手の中にすっぽりと納まっていた。
見れば、それはオモチャオだった。
鋼鉄の表面は氷のように冷たく、今もぷしゅぷしゅ言って動かないところを見ると、壊れているのかもしれない。
俺は考える。
明日って・・・聖誕祭なんだよな。
ふっと笑みを浮かべると、壊れたオモチャオを上着の中へと入れた。
氷のように冷たい鋼鉄の表面も、火照った体に気持ちがよかった。
「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」
翌朝、俺は突然の叫びに目を覚まされた。
「ささささむいぃぃぃ!!」
叫びの発生源は、昨日拾ってきたオモチャオのようだ。壊れてなかったのか。よかった。
あのあと風呂にも入らず自室に直行し、そのまま眠りについてしまった。
オモチャオも上着に入れたままだったから、たぶん何かの拍子に、ベッドから抜け出てしまったんだろう。
時刻を見ると、午前七時。
俺はオモチャオのためにヒーターの電源を入れておいてやると、朝食を食べにダイニングへと向かう。
御主人は独り身のはずなのに、この洋館は無駄に広い。
(こう言うと御主人は「いつか結婚して大家族になるんだ」と夢を語ってくれる。
まあ確かに御主人の年齢はまだ40前後なはずなので、無理ではないんだろうけど・・・)
で、館に空き部屋が多いためか、俺は割と幼い時期から一人部屋を与えられていた。
それ以来色々秘密を溜め込んできたが、今回はオモチャオか・・・
オモチャオぐらいなんだってことはないんだろうけど、色々秘密を握っていると、それだけでワクワクしてしまうようなところがある。
ダイニングの構成は、円テーブルにいすが二脚。
御主人は既に食事を始めていた。
「昨日、遅かったのか?」
御主人が話しかけてくる。昼間家にいない御主人とは、朝食夕食時が主な接点だ。
俺はもう一方の椅子に腰掛けながら、
「ん、まあ。」
とあいまいな返事。
「なんか、なかったか?」
「え?」
御主人はコーヒーカップを脇において、手を顎にかけた。
俺はちょっと迷ってから、ここは別に隠すようなことでもないか、と、正直に話す。
「実は壊れたオモチャオを拾ってきてて、でも今朝見たところ大丈夫そうだったから、そのうち返してくるよ」
「そうか」
御主人うなずくと、手を合わせて丁寧に「ごちそうさま」をし、部屋を出て行った。
俺はもそそくさと料理をかっ込み、ごちそうさま。
御主人の分も含めた食器を流しへ運ぶ。
自室へ戻ると、さっきのオモチャオがこちらへ向かって飛んできた。
「昨日はどうも、ありがとうっ!!」
見ているとどうもこのオモチャオ、元気がよすぎるようだ。
熱気がすごい。目の中に炎も見える。
「僕はかいろ君って呼ばれているオモチャオで、この町で働いてんだ。
でも実は寒いのが大の苦手で、昨晩はそのせいでちょっと調子が狂ってたんだな。
というわけで、助けてくれてありがとう!!!」
俺の手は彼に勝手に握られている。
「助けてくれたお礼にぜひ恩返しがしたい!
何でもいいから言ってくれ!大丈夫!気合には自信がある!!」
そんな熱いオモチャオを見ながら、俺は真剣に考えていた。
このケースは、浦島太郎と鶴の恩返しのどちらに近いのだろう?
確か、両方ともバッドエンドだった気がする・・・
とりあえず、
「町の人のお手伝いでもしてきたら?
ここにいても仕事は無いと思う。」
「了解!!!!!」
オモチャオ――かいろ君はそう叫ぶと、部屋の窓を開け放った。
「行ってきます!」
頭のプロペラをパタパタと回し、飛んでいくかいろ君。
・・・・・
がたがたに震えたかいろ君が戻ってきたのは、その数分後のことだった。