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「とにかく、せっかく来てくれたのに悪いのだけれど、元の世界に帰ってくれないか」
「なぜですか。私はご主人様に恩返しがしたいだけだというのに」
「気持ちは嬉しいけれど、君はここにいるべきではない。君は、チャオとして生きていくべきだ」
「そうですか……」
俯き加減に、しゅんとうなだれる元ルビーチャオのメイド。
それをみて、罪悪感を覚えずにはいられない少年であった。
元ルビーチャオのメイドは、ぼそりと呟いた。
「ご主人様は……メイド萌えではなかったのですね」
「話、聞いてねー!」
「でもご安心ください。様々なニーズに答えられるよう、幼馴染やツンデレをはじめとするありとあらゆる属性パターンを用意してきました。何なりとお申し付けください」
「えっ。じゃあ、妹とか」
「お兄ちゃんっ!」
「切り替え早っ!」
「それにね、お兄ちゃんはあたしの他にもたぁ~くさんチャオを育てているでしょ?」
「うん。GC版のソニアド1と2のガーデンは全部満員だから、君を含めて四十八匹……」
「他の子たちもね、お兄ちゃんの所に来たがってるよっ! だから『いろんなタイプの女の子が何故だかみんな主人公に好意を抱いている』なんていうお約束ハーレムシチュエーションの実現も簡単だよっ!」
「だからその長いものには巻かれろ的発想を改める努力をしようよ!」
ぴんぽーん。
「あっ、みんな来たみたいだねっ!」
「なにっ!」
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。
「怖ーい!」
絶え間なく響く呼び鈴の音。玄関の前でひしめき合う大量の女の子達の姿を想像し、恐怖を覚える少年であった。
いよいよ事態は混迷の極みに達する。もはや何をどうやっても収拾不可能。
だが、たった一つだけ、このカオスなお話を終わらせる方法がある。
「一体どんな方法があるというんだ、教えてくれ!」
それは、どんな物語でも強制的に終止符を打つことができる、最後の切り札。
「そ、そうか! この悪夢から! 文字通り目覚める方法!」
さぁ、そろそろ起きるんだ。
「起きるんだ、僕!」
…
ある夏の日のこと。
日の出と共に布団を蹴り上げて、勢いよく起床する少年がいた。
びっしょりかいた汗と荒い呼吸が、今まで彼が悪夢にうなされていたことを物語る。
深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻したところで、少年は一言呟いた。
「夢オチ様、本当にありがとうございます」