4話 素手も武器
平和という理想 4話 素手も武器
本来ならば、素手で戦うより武器を持って戦った方が有利だろう。しかし、武器の方が必ず強いとは限らない。なぜならば、武器の重さがない分素手は接近と回避、そして攻撃速度にすぐれるのだから。
「でやぁ!!」
ナックルズチャオが、シンギに素早く接近し、シンギを思い切り蹴る。さきほどから、シンギ達は攻撃をしていない。否、できないのだ。彼の素早さに追いつけず、攻撃が全くできないのである。
「シンギ!お前は空中にいろ。空中ならあいつの攻撃はとどかない。そして、隙をみつけたら攻撃しろ」
「OK!そういうことなら任せろ!」
シンギは天井すれすれとところまで上がる。天井はとても高いので、シマの言うとおり攻撃が当たることはなさそうだ。
「なんだ?その鎧と兜ならば俺の攻撃は無効にできるとでも?」
「お前の思っているほど、この鎧と兜はもろくない」
両者ともよほどの自信があるようだ。特にナックルズチャオの方は何度かシマに攻撃をしている。そのため、今までの攻撃が本気ではなかったということを言っているのと同じなのである。そうなると、彼がしてくるのは体力の消耗が激しい代わりにとても高い威力で攻撃してくる。つまりRPGゲームで言えば必殺技なるものを出すことは大体予想ができてしまうのだ。
「じゃあ、行くぜ」
ナックルズチャオが、飛び退いて相手との距離を広くしてから姿勢を低くして相手に猛スピードで接近していく。シマは、槍を構えてすぐに反撃ができるようにする。このようにすることはシマのとっさの判断上、相手が素手で必殺技をする時の最善手である。なぜならば、逃げても追いつかれてしまう上に距離が広くなることで相手の勢いが増す。また、こちらが接近しても相手の攻撃が腹(鎧)に食い込む。さらに、両方とも反撃が遅れてしまうという考えだった。
ナックルズチャオは、その低姿勢で走っている状態から両足を宙に少し浮かせ、両手で床を蹴る。そして、浮いた足で頭を押さえ、手を頭と足で出来た輪の中に入れた。すると、ナックルズチャオは車輪のような形になり、まるでソニックのようにさらに勢いをつけてシマに接近する。そして、シマの目の前でその状態を解除して地面を思い切り蹴ってジャンプしながらアッパーをシマの鎧に当てた。この攻撃方法は言うまでもなく普通のチャオではできない。彼の特訓の成果とも言えるだろう。また、ただ凄いだけではない。いつ攻撃するのかわからなくする効果もある。
「グオッ!?」
「これぞ、エネルギーアッパーッ!!」
ナックルズチャオのアッパーはシマを思い切り吹き飛ばし、シマを壁にぶつけた。シンギは、ナックルズチャオの後ろに回り込み、低空飛行をしながら素早く接近する。
「てぇぇい!」
「ハッ!」
シンギの振った剣はナックルズチャオの上段蹴りに止められた。剣ははじかれそうになったものの、シンギは剣を強く握りそれを防いだ。ナックルズチャオは剣をはじけなかったために、連続攻撃のチャンスを失った。そのため、ナックルズチャオは後ろに飛び退いた。
「ったく。まさかあんな攻撃をするとはな」
シマが呟く。ナックルズチャオがシマの方を見ると、壁に寄りかかって座っており、赤のカオスドライブを一時キャプチャーしている途中だった。
「馬鹿野郎。さっさと空中に行きやがれ」
一時キャプチャーをし終えたシマは、立ち上がりながら言う。シンギはあわてて再び天井まで飛んでいく。しかしシマは、この判断が最善手だとは考えてはいなかった。なぜならば、すぐに攻撃が出来る者が多い方が有利な上、位置としてはシマとシンギがナックルズチャオを挟んでいる状態だったからだ。しかし、ナックルズチャオの攻撃がシマが接近するまでにシンギにまともに当たってしまうとどうなるだろうか。その場合は鎧を着けていないシンギは当然気絶するだろうし、下手すれば死んでしまう可能性まである。それ以前に、シンギは素早く相手に攻撃することができる。そういう面から考えれば、最も安全とは言えるだろう。
「まさか、俺のエネルギーアッパーをくらって立っているとはな」
「ふん、もろくないと言っただろうが」
シマはナックルズチャオに向かって突進していく。さきほどのエネルギーアッパーならば、アッパーをした時に思い切りぶつかることができ、そのまま槍で刺すことも可能だからだ。
「確かに、俺がまたエネルギーアッパーをするならば、その作戦は有効だろうな」
ナックルズチャオはシマに接近し、シマが槍で突くと同時に後ろに大きく飛び退き、すぐにジャンプをして空中で回し蹴りをする。
「エネルギーキック。誰がエネルギーアッパーが最強技と言った?このスラッシュをなめるなよ?」
ナックルズチャオ、スラッシュが地面に着地しながら少し飛ばされたシマに言った。