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「君の名前はエースだ。君の名前はエースなんだよ」
光に目が慣れるまで、しばらくの時間が必要だったことを、覚えている。
僕が生まれ落ちたその日から、僕がハーフチャオであることは、決まっていた。僕が捨てチャオであることも。全部、その時から決まっていたのだ。
だから諦めるしかなかった。
どっちにしろ、悪いのは僕じゃないのだから。
「さあ、お前も何か言ってやれ! 言いたい事くらいあんだろ!」
「え? え?」
僕に何が出来たというのだろう。
1人しかいない僕には、何も出来ないんだ。当たり前だろ?
「なんていうか、気持ちなの。家事を手伝うってだけで、感謝の気持ちは伝わってると思うわ」
でも、やっぱりそれだけじゃ僕にとって不足なのだ。せめて僕の稼いだお金で、僕が選んだものをあげて、喜んで欲しい。そう思う。
『あの子、ハーフチャオだよ』
『暇で友達いないから、勉強してるんだろ。やりたくてやってるわけじゃねーよ』
『ちょっと珍しい肌の色してるからって、調子に乗ってるよね』
『どうせ何言っても無駄だよ』
『飼い主いないみたいだよ——捨てチャオなんだって』
『近寄らない方が良い』
僕が味わった苦しみなんて、誰も分かっちゃくれないんだ。
僕は何一つ、悪いことなんてしていないのに。
「失敗したっていいんだって。謝ればそれで終わりだ」
「本当にそうでしょうか」
本当にそうなのか?
本当のことを僕は知りたい。みんながどう思っているのか、僕は一体、どうすればいいのか——
僕が、僕を捨てた両親と飼い主からもらったものは何もないのに、他のみんなは色々なものをもらっている。
僕の方がずっと不幸なのに。
「どうして僕ばっかり、こんな目にあわなくちゃならないんだよ……!」
他のみんなは、もっと悪いことをしているのに。
僕が幸せになれないのは、どうしてなんだろう。
僕が自由になれないのは、どうしてなんだろう。
他のみんなも、同じ思いをすればいい。
すれば、いいんだ。
「やっと、やっと見つけました」
——本当にそう思っているのか?
逃げよう。
それがいい。
そうしなきゃだめだ。
そうする他ない。
急いで帰って、急いで出かけよう。
僕のことを誰も知らない場所へ。
走って行こう。
「もう、嫌なんだ」
でも、僕は。
「逃げたいのなら、逃げてもいいのよ」
それでも、僕は。
「だけど、全部中途半端で逃げるのだけは、許さないからね、エースちゃん」
僕は、生きていちゃいけないのかもしれない。
ここにいちゃいけないのかもしれない。
楽しく笑っていたら、いけないのかもしれないけれど。
だとしても、僕は、
——優しくしてくれた人たちに、恩返しがしたいんだ。
「なんでお前みたいなやつがここにいるんだよ、エース!」
「ここにいたいからいて、それで悪いか!」
「友達になろう」
「は、今更何を」
「良い友達になれると思うんだ」
コドモチャオはオトナチャオに勝てるだろうか?
弱い僕が、強い相手に勝てるだろうか?
「勝算はあるの、レイ?」
「全てはお前にかかってる! 頼んだ!」
僕は、1人なんかじゃないんだ。
負けたりなんかしない。
相手にだけじゃない。
弱い自分にも、だ。
Half and Half birthday presents for Mr.Chapil
「行って来ます」
Feb.2、公開予定。