ページ1
あぁ、だるい・・・。
ふふ・・・、だるいのも当然ね。
私の命もそう長くないんだから・・・。
退院して自宅療養ということになってるけど、体よく厄介払いされただけだわ。
「病気は完治しました。あとは本人の気持ちの問題です」なんて医者の言葉は、単なる言い訳にすぎないわ。
自分の体のことは、自分が一番分かるんだから。
突然倒れたのはいつのことだったかしら。
あれは、自分の部屋でのことだったと思う。
倒れた私に心配そうに駆け寄ってきた、チャオたちの表情を、かすかに覚えているから。
気づいた時には、病院のベッドの上だった。
白い天井。
生気のない、暗い雰囲気。
疲れきった、でも、それを無理に隠そうとしている看護師達。
自分達が一番不安なのに、心配することはないと言う両親。
何もかも嫌だった。
早く、チャオたちの待つ、自分の部屋に帰りたかった。
でも、体が動かなかった。
嫌いな病院に居続けるしかなかった。
せめて、チャオたちが見舞いに来てくれたら。
でも、それは叶わなかった。
一日が無限の時を持っていて、入院生活が永遠に続くと思えてきたある日、突然、一時帰宅を許された。
「病状が安定してきているので、短期間の外泊なら問題はありません。自分の家で誕生日を祝ってもらうといいでしょう」
こう医者が言ってくれるまで、自分の誕生日のことなんて、すっかり忘れていた。
チャオたちに会える。
誕生日をチャオたちと一緒に過ごせる。
まだまだ体の自由が利かない私にとって、それは夢のような話だった。
でも・・・。
ひさしぶりに、自分の部屋の扉を開けた私の目に入ってきたのは、見慣れぬ色のマユだった。
転生できなかったチャオが、最後に包まれるという灰色のマユ・・・。
私は、冷たいマユを抱きしめることしかできなかった。
私の代わりに家族がチャオたちの世話をしてくれていたとはいえ、みんなは世話をすることに慣れていなかったし、なによりチャオたちは私に一番懐いていたから、転生できないチャオがいるのも仕方なかったかもしれない。
でも、せめて、灰色のマユに包まれる前のチャオを抱きしめたかった。
寂しい思いをさせてゴメンって、言ってあげたかった。
不意にマユが消え、支えを失った私は倒れこんでしまった。
私は、きっと泣いていたんだと思う。
他のチャオたちが、慰めるように私に擦り寄ってきてくれていた。
このコたちも、友達を失って悲しいはずなのに・・・。
こうして、私の誕生日と一時帰宅は終わった。
思えば、この時から体調が、より悪くなったんだわ。
なのに、医者はそれを認めようしなかった。
口から出るのは気休めばかり。
「経過は良好です」
「大丈夫、何の心配もありません」
「これなら、もうすぐ退院できますよ」
こんなに気分が悪くて、思うように体も動かないのに?
そんな私の訴えを無視するように、退院の日がやってきた。
退院の前の日に、両親と医者が何か長い間話していたようだった。
きっと、私の体がもう良くならないって話をしていたんだわ・・・、今の私には、どうでもいいことだけど。
「もう少し気持ちを前向きにしないとダメよ。明るい気持ちでいたら、すぐに元気になるんだからね」
私を担当していた看護師の最後の言葉に、私は何も感じることはなかった。
もう、どうでもいいんだから。
再び、自分の部屋に、私は戻って来た。
まだ3人のチャオが、ここには残っていた。
以前の私だったら、チャオたちの顔を見ただけで元気が出たんだろう。
でも、今は違う。
未来の閉ざされた私に、力を与えてくれるものなど、もう何もないんだから。
せめて、私の愛したチャオたちに、見守られながら旅立てればいい。
今は、それだけが望み。
でも、そんなささやかな望みも叶えられそうになかった。
続く