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あぁ、だるい・・・。
ふふ・・・、だるいのも当然ね。
私の命もそう長くないんだから・・・。

退院して自宅療養ということになってるけど、体よく厄介払いされただけだわ。
「病気は完治しました。あとは本人の気持ちの問題です」なんて医者の言葉は、単なる言い訳にすぎないわ。
自分の体のことは、自分が一番分かるんだから。

突然倒れたのはいつのことだったかしら。
あれは、自分の部屋でのことだったと思う。
倒れた私に心配そうに駆け寄ってきた、チャオたちの表情を、かすかに覚えているから。

気づいた時には、病院のベッドの上だった。

白い天井。
生気のない、暗い雰囲気。
疲れきった、でも、それを無理に隠そうとしている看護師達。
自分達が一番不安なのに、心配することはないと言う両親。

何もかも嫌だった。
早く、チャオたちの待つ、自分の部屋に帰りたかった。

でも、体が動かなかった。
嫌いな病院に居続けるしかなかった。

せめて、チャオたちが見舞いに来てくれたら。
でも、それは叶わなかった。

一日が無限の時を持っていて、入院生活が永遠に続くと思えてきたある日、突然、一時帰宅を許された。
「病状が安定してきているので、短期間の外泊なら問題はありません。自分の家で誕生日を祝ってもらうといいでしょう」
こう医者が言ってくれるまで、自分の誕生日のことなんて、すっかり忘れていた。

チャオたちに会える。
誕生日をチャオたちと一緒に過ごせる。

まだまだ体の自由が利かない私にとって、それは夢のような話だった。

でも・・・。

ひさしぶりに、自分の部屋の扉を開けた私の目に入ってきたのは、見慣れぬ色のマユだった。
転生できなかったチャオが、最後に包まれるという灰色のマユ・・・。

私は、冷たいマユを抱きしめることしかできなかった。

私の代わりに家族がチャオたちの世話をしてくれていたとはいえ、みんなは世話をすることに慣れていなかったし、なによりチャオたちは私に一番懐いていたから、転生できないチャオがいるのも仕方なかったかもしれない。

でも、せめて、灰色のマユに包まれる前のチャオを抱きしめたかった。
寂しい思いをさせてゴメンって、言ってあげたかった。

不意にマユが消え、支えを失った私は倒れこんでしまった。

私は、きっと泣いていたんだと思う。
他のチャオたちが、慰めるように私に擦り寄ってきてくれていた。
このコたちも、友達を失って悲しいはずなのに・・・。

こうして、私の誕生日と一時帰宅は終わった。
思えば、この時から体調が、より悪くなったんだわ。

なのに、医者はそれを認めようしなかった。
口から出るのは気休めばかり。

「経過は良好です」
「大丈夫、何の心配もありません」
「これなら、もうすぐ退院できますよ」

こんなに気分が悪くて、思うように体も動かないのに?

そんな私の訴えを無視するように、退院の日がやってきた。
退院の前の日に、両親と医者が何か長い間話していたようだった。
きっと、私の体がもう良くならないって話をしていたんだわ・・・、今の私には、どうでもいいことだけど。

「もう少し気持ちを前向きにしないとダメよ。明るい気持ちでいたら、すぐに元気になるんだからね」

私を担当していた看護師の最後の言葉に、私は何も感じることはなかった。

もう、どうでもいいんだから。

再び、自分の部屋に、私は戻って来た。

まだ3人のチャオが、ここには残っていた。

以前の私だったら、チャオたちの顔を見ただけで元気が出たんだろう。
でも、今は違う。
未来の閉ざされた私に、力を与えてくれるものなど、もう何もないんだから。

せめて、私の愛したチャオたちに、見守られながら旅立てればいい。
今は、それだけが望み。

でも、そんなささやかな望みも叶えられそうになかった。


続く

このページについて
掲載号
週刊チャオ第9号
ページ番号
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この作品について
タイトル
灰色 ~悲しみの色~
作者
懐仲時計
初回掲載
週刊チャオ第9号