裸足の女神
月明かりがふとその家を照らした。
まぶしいなんて言って目を覆わない程度に、
光が見えないといって目をこらさない程度に。
いつか小学校のとき校門の前で君は泣いていただろう。
あの時はたしか、忘れ物をしたのに気付いたからだっけ。
他人を助けるのが恥ずかしい。
これが心だといわれている。
でも、なんか見過ごせないような気がして、
後から先生に怒られること覚悟に、
自分のそれを、自分の優しさを、君の手に握らせた。
でも、そんなこともうお互い忘れてしまったかのように、
中学、高校と会う機会はどんどん減っていった、
でも、悲しくはなかった。
自分自身、他の人に自分をぶつけて足をくじいていたから。
そんなこと、さっぱり忘れていた。
二人三脚は少しコツがいる。
そして、その競技に君とくじ引きで参加することになった。
君は泣くような子では無くなっていた、
君はかわいくなっていた。
そして、あの時を君は忘れていた。
チャオのように君の小さい体をなでてあげたい、
チャオのように君の小さい体を抱き上げたい。
風は夢物語をいずこへと飛ばしていく。
またいつか、君は泣いていただろう。
あの時、君は恋を誰かにぶつけて、壊れた。
他人は助けなければいけない。
それが心だと言われている。
でも、今度は僕は自分のモノも優しさも、
その白くてかわいらしい手に握らせることは出来なかった。
木枯らしが君の冷たい頬をなでる。
僕はいつの間にか、君に何も出来ない人間になっていた。
君と僕の足下の平行線は混じり合うことはないだろう、
例え、一生その髪を追いかけても。
君は夢を見たのだろうか。
僕以外の男の人と手をつないでどこかに飛ぶ夢を。
まぁ、それでも良い。
どうせ君と僕とは一生友達以下なんだ。
俺はふと叫んだ。
そんなことこれっぽっちも思ってないくせに。
メール交換さえ恥ずかしくて言うことが出来なかった。
君は又、別の男の人に恋をぶつけていた。
君は笑顔だった。
僕は表面上は良かったな。みたいな「おとな」の顔をしたが、
心のどこかで、又泣いて欲しかったのかもしれない。
でも、その時、僕の優しさをぶつければ・・・なんて、
もしもの世界だけで生きたくはなかった。
君と僕の足下の平行線は混じり合うことはないだろう、
例え、一生その笑顔を追いかけても。
そう、
追いかけても・・・
追いかけても・・・
その先にあるのは虹色のカクテルに染められた平行線。
あぁ、夢物語、
その真っ直ぐすぎる平行線を少しでも良いから内側に曲げてくれ。
僕はいつでも「こども」だった。
そんな恋のストレスを迷惑というモノに変化させた。
こうなったら君の家にトラックで突っ込みたいなんて思った。
それで君が死んでもいい・・・なんて。
チャオみたいに僕が抱き上げたら笑顔になって欲しかった。
でもその抱き上げるべき人は僕ではなかった。
僕はこの先誰と初恋を迎えるのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。
答えは、見つからない。NOT FOUND。
ある日、君の笑顔はゆがんだ。
その裸足はカッターでずたずたに切られていた。
君は、立てなくなっていた。
それでも、君は傷を隠そうとした。
誰でもない、周りの人たちに。
僕は君がその傷を見せたら慰められると思っていた。
その痛みを知る眼差しは僕にそっくりだったから。
もちろん、市販の薬を塗って直るモノではないだろう、
だから、僕があの時してあげたように、
もう一度優しさを君のその手に置いてあげるから。
君はゆっくりと怖がるように僕に近づいていった。
僕は歯痒くなかった、切なくもなかった。
その眼差しを向けられた僕は萎れることはない。
さぁ、泣かなくても良いんだよ。
その傷だらけの足を隠さなくても良いんだよ。
一歩一歩、チャオのようにゆっくりゆっくり歩いておいで。
別に僕は君のその恋をぶつけて欲しくもない、
君との平行線が交わったままにならなくても良い、
ただ、君を優しさで包みたいだけ。
君は僕の目の前にやって来た。
裸足に刻まれたその傷を君は隠さなかった。
僕は、手を握った、あの時と同じように。
君は心から人に微笑むようになった。
もちろん、僕は君の大切な存在でも何でもない、
又一日一日君とは平行線を作ったままだった。
でも、君の裸足の傷がもう無いことを僕だけが知っていた。
君は又新しい恋をするだろう。
くじけても風を受けても、君は立ち上がるだろう。
君はこの地平線に続く架け橋を渡り始めていた。
君の行き先を、僕は知らない。