『お嬢様とメイド3』
フィルはメルトの戦っている姿を見ていた。
あまりにも手品じみた戦いだったからだ。
食堂にある椅子をブーメランの軌道で相手の背中に当てたり、ナイフを真っ直ぐ投げつけたり、そして・・・トランプで相手のナイフを斬ったりしていたからである。
フィル「・・・凄い。」
フィルは正直にそう思っていた。
このような戦いができるチャオなど、あったこともなかったからだ。
やがて、ダークチャオ達は全員卵になっていた。
メルトがフィルのもとに近づいてくる。
メルト「一応、これで安心です。」
フィル「・・・あんた。なに今の?なんでいきなり夜になって月光があんたに差し込んできたの?」
メルト「・・・それは自分でもよく分かりません。何故か戦うときになるみたいです。」
フィル「まぁ、いいわ。おもしろい奴がやってきたわね。」
フィルは少し笑っていた。
メルトは何でフィルが笑っているのか分からなかった。
フィルは、とても好奇心がある。
とにかくおもしろいことを探したがるのである。
今のメルトを見て、メルトに興味を示したのだろう。
フィル「とりあえず、あの卵は捨ててきて。くれぐれも殺さないようにね。」
メルト「? 分かりました・・・。」
そういって、メルトは卵を縄で縛り上げ、そして屋敷の外の森に捨ててきた。
メルトはその時一つだけ疑問に思っていた。
メルト「・・・何故お嬢様はこのチャオ達を殺さないようにしたのでしょうか。」
今のメルトでは、到底理解できないのであった。
メルトが屋敷に帰ると、フィルはメルトのことをいろいろ問いただしてきた。
質問内容は数え切れないほどされたらしい。
それが終わると、フィルはメルトと遊ぶようになった。
遊ぶ・・・といっても、散歩だったり、地下にある図書室の本を読んだり、紅茶を飲んだりと、そこまで遊びといえるようなことはしていなかった。
そして、屋敷にはジェネリクトやピューマ、ヴァンといろんな人が訪れてきた。
メルト「ジェネリクト。」
屋敷にジェネリクトが来てから数ヶ月たったある日。(ピューマはまだ来ていない)
図書室の中、メルトはジェネリクトに話しかけていた。
ジェネリクト「なんだい?」
メルト「・・・お嬢様に会って、私の意見が変わってきたような気がします。」
ジェネリクトは本を読むのをやめて、メルトの顔を見た。
ジェネリクト「突然どうしたんだい?メルトらしくない。」
メルト「・・・今までは邪魔なチャオは殺す。感情はいらない。メイドはただ仕事をこなせばいいと思っていました。」
ジェネリクト「・・・・・。」
メルト「でも、最近はチャオを殺さなくなってきましたし、感情も多少私の中に存在するような気がしてきました。・・・なんでなのでしょうか。」
ジェネリクトはしばらく考え込んで、答えを言った。
ジェネリクト「君は・・・あのお嬢様の優しさに触れたんだね。」
メルト「・・・優しさ?」
メルトはにわかには信用できなかった。
あのわがままなお嬢様のどこに優しさがあるのかが・・・。
ジェネリクト「どんなチャオでも殺すことはしない。相手も楽しんでもらえるように一緒に遊んだり・・・・・。」
メルト「・・・そうでしょうか。」
ジェネリクトはため息をつくと、こう言った。
ジェネリクト「いずれ分かるさ・・・君にもきっとね。」
メルトは目を覚ました。
目の前は見慣れた天井が見えた・・・自分の部屋である。
メルト「・・・一体私はどうしたのでしょう。」
昔の夢を見ていたようですね・・・。
そう思っていたメルトの隣には・・・・・・フィルが寝ていた。
メルト「・・・お嬢様?」
ジェイド「お、メルトさん。もう大丈夫ですか?」
声のした方を見ると、扉の前にジェイドさんがいた。
・・・どういう状況なのだろうか。
メルト「・・・私。もしかしてなにかありましたか?」
ジェイド「なにかって・・・。」
ジェイドは一度考え込むと、メルトになにがあったのか今までのことを話した。
メルト「・・・すみません。心配かけてしまいました。」
ジェイド「今日はゆっくり休んどけってフィルが言ってましたよ。あいつかなりパニックになってましたから。」
正直、あの冷静じゃないフィルを見るのも、もうあって欲しくないけどな・・・。
見ていると、こっちが複雑な気分になる。
メルト「分かりました。」
ジェイド「後、フィルは倒れてからずっとそこにいたんですよ。相当心配だったのでしょうね。」
そう言って、ジェイドは部屋から出て行った。
メルト「・・・お嬢様。」
—君は・・・あのお嬢様の優しさに触れたんだね。—
・・・今なら分かる気がする。
メルトは一度立ち上がると、部屋にあった毛布を取り出した。
そして、フィルに毛布をかけて・・・。
メルト「ありがとうございます。お嬢様。」
そう一言言った。
二人の絆は・・・どこまでも深まっていくのであった。
第九話「お嬢様とメイド」 終わり