『酒は力なり』3
なんだかんだで時は流れていった。
ヴァンは瓢箪の酒を飲み、俺はピューマさんに介護してもらって、なんとか意識がはっきりすることができた。
メルトとフィルは紅茶を飲みながら何か話していた・・・飲む場所がおかしい気もしたが。
ジェネリクトさんは本を読んでいた。何の本だろうか?
このまま平和に時が過ぎると思ったが・・・日が悪かったのだろうか?
こんな日に限ってこうなるとは・・・。
突如、庭の方からナイフが飛んできて、ヴァンの持っていた瓢箪に当たり、瓢箪が粉々に砕け散った。
ジェイド「なんだ!?」
庭のほうを見ると・・・・・ダークチャオが10・・・・・13体がそこにいた。
ダーク1「お前達動くな。」
そうダークチャオの一人が言ってきた。
フィル「・・・はぁ、侵入者のようね。」
ジェイド「侵入者!?」
フィル「たまにいるのよこういうやつら。こんなお金がありそうな家に、誰も攻めてこないわけないでしょ?」
確かにこの屋敷は他の人から見ると、見るからにお金がありそうな場所に見えるな・・・・・。
メルト「酷いときは一週間に一回くらい、侵入者が来る時もあります。」
ジェイド「そんなにですか!?」
メルト「門番もいませんし、ましてはチャオの場合ではダークチャオという存在も多いからだと思われます。」
チャオの場合は、ヒーローとダークに分かれてしまう・・・ダークチャオも多いからこうなることも多いわけか・・・。
何故門番をつけないのだろうか・・・。
ダーク4「お前ら喋るなぁ!!」
ピューマ「うぅぅ・・・。」
ピューマさんは怖がっている・・・無理もない。
俺だって凄く緊張して脚がガクガクしている。
もっとも、この屋敷にはそんな常識人が少ないわけだが・・・。
ジェネリクトさんなんか、未だに本を読み続けている。あんた何者だよ・・・。
メルト「・・・お嬢様。」
フィル「えぇ、命令よメルト。あいつらを倒しな・・・。」
と言った瞬間。いきなりフィルは命令をするのを止めた。
メルト「・・・お嬢様?」
フィル「・・・メルト。戦う必要はなさそうよ。あれを見なさい。」
フィルの指を指した方向にはヴァンさんがいた。
ヴァンさんはふらりと立ち上がると、ダークチャオの方に向かって歩き出した。
ジェイド「ちょ・・・ヴァンさん!何しているんですか!?」
フィル「ほおって置きなさい。」
ジェイド「お前!ヴァンさん死ぬぞ!?」
そういうと、ジェネリクトさんがいきなり話し始めた。
ジェネリクト「彼・・・彼女?まぁどっちでもいいか。・・・これは大暴れするね。」
ジェイド「え?」
フィル「ヴァンはね、酒がなくなる・・・瓢箪が壊されるとすっごい怒るの。そして怒るその時・・・。」
その瞬間、ドカン!! と凄い音が鳴った・・・。
見ると、一人のダークチャオがヴァンにぶん殴られたらしい。
フィル「力なら誰にも負けないチャオになるわ。」
ヴァン「お前ら・・・俺の酒を・・・・・俺の楽しみを・・・・。」
ダーク5「なんだこいつ!?」
ヴァン「はよ酒持ってこんかいごらあああああああああああああああああ!!!!」
そして、ナイフを持っているダークチャオの腕を掴んで野球選手のごとくチャオを投げた。
そのまま、次のダークチャオを殴って殴って蹴って、そしてまた投げて追い討ちでぶん殴って、蹴りつけた。
その様子を俺はずっと見とれていた。
圧倒的に戦っていたから見とれていたのかもしれないが・・・ヴァンさんの使う技は、いわゆる基本の技を使っていたからだ。
殴るか蹴るか投げるか・・・いずれかの技だけで敵を圧倒していた。
ナイフも上手く側面を殴りつけて、へし折っていく。
相手から殴られても、微動だにせずカウンターを喰らわせていった。
フィル「メルト。命令変更、お酒を持ってきなさい。」
メルト「かしこまりました。」
そういって、急いでどこかにメルトさんは走っていった。
なんなんだよこの屋敷に来る人達は・・・・・。
ぶっちゃけこの屋敷では、自分はなにもできないチャオでもう嫌になってきた。
凄い人達だらけだここは。
やがて、全部のダークチャオ達は転生していた。
灰色のチャオが2つあったが、他は卵になっていた。
ヴァンはこっちを振り向くと、そのままこっちに歩いてきた。
・・・殺意がまだ感じるんだが。
フィル「あぁ。まだ襲ってくるわよあいつ。敵味方ほぼ関係ないから。」
ジェイド「なんだと!?」
フィル「でも・・・もう大丈夫のようね。」
その時に、メルトさんが帰ってきた。
手には焼酎瓶を抱えていた。
メルト「ヴァンさんお酒です。」
そう言うと、ヴァンさんの意識が元に戻った。
ヴァン「うおー!ありがとうメルトー!私のことよく分かってるねぇ。」
そして、ヴァンは酒を飲み始めた。
メルトさんは卵を縄で縛り上げに行った。
なんなんだこの人達は・・・・・。
ジェイド「ヴァンさん・・・。」
ヴァン「何~?」
ジェイド「さっきやってたこと・・・覚えてる?」
ヴァン「覚えてるよー。俺がダークチャオぶっとばしてやったぜ!」
ジェイド「その後、なんでこっちに襲いかかろうとしたんだ?」
ヴァン「・・・御免。怒っていると、なんでもかんでも殴りたくなるんだ・・・。」
どんな問題児だ。
ところで、さっきから気になったことがあるんだが・・・。
ヴァンの言葉遣いがどうも気になる。
ジェイド「フィル。」
フィル「何?役立たず。」
役立たずだと・・・?・・・いや無視だ無視。
いちいち付き合ってられん。
ジェイド「ヴァンって、男?女?」
フィル「・・・あんた馬鹿ね。チャオはそんなもの存在しないわよ。だから、ヴァンは男か女なんて存在しないわよ。それ自身がヴァンなのよ。・・・珍しい感じではあるけどね。」
そんなんでいいのだろうか・・・。
結果的に、やはりチャオは男女は存在しないのだ。
その後、ダークチャオは森のどこかに捨てたらしい。
警察に持っていっても、証拠が必要となり、屋敷が公になるのがフィル達にとって嫌らしいからだ。
ダークチャオも転生すれば能力がかなり落ちるため、しばらくは襲ってこないであろう。・・・・・あんな怖いことがあれば二度とこない気がするけどな。
ダークチャオを捨てた後、再び月見を始めた。
ジェイド「今思えば、なんで門番が存在しないんだ?」
ふと、そんな質問をフィルにしてみると。
フィル「どちらにせよ、メルトがいるから大丈夫よ。誰にも負けるわけないじゃない。」
と言い返してきた。どんな理論だろうか。
でも、本当にそうなのかもしれない。
ましては、怒らしてはいけないチャオが屋敷にほぼ毎日存在するのなら、誰も勝てることなんてないのだろう。
ヴァン「あー酒がうまいうまい!」
そのチャオは満月を高らかに見上げ、大好きなお酒を飲んでのんびりしていた。
第四話「酒は力なり」 終わり