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双子はしばらく泣き続けた。ようやく泣き止ませることに成功したのは日も沈んだ頃で、私は心身ともにへとへとの状態となっていた。
「人間の言葉を喋るチャオが他にもいるとはなあ」私の横でのうのうと言うエッグマン。先の傲慢な男がやって来た頃からこの部屋にいたのだが、あの男がいるうちは奥になりを潜めて事を見ていたのだ。嫌らしい男であるが、チャオを宥めるのに一役買ってくれもした(しかし泣き声を大きくするばかりだったが…)。
「いや、これは、キャプチャだろう」
「人間をか?」
「この双子はどうやら、あの男の記憶を読んでいたように見えた」
「パーツをコピーするだけではないんじゃな…ふむ、面白い」
このチャオ達は、どうやら動物のパーツをキャプチャすることができない代わりに、その動物の記憶や能力を、一時的ではあるが引き出すことができるらしい。動物を抱いても、その動物の持つ記憶を一時的に共有するだけだから、見た目何も変化は無かったのだろう。
そしてその能力は互いに手を繋いでいないと効果が無いようにも見える。
双子であるがためなのかどうかはわからないが。 もしかしたら色が薄いのもこの辺りに起因しているのかもしれない。
しかし、そんなことはどうでもいい。調べればもう少し詳しいことも分かるだろうが、そのような必要も、、いま私達の前で眠っている二人のチャオを見ていると、感じられない。


それから数日経った日にテイルスがやってきて、双子を引き取りたいと言ってきた。
それより少し前に双子を買った人物から、「あんな化け物を飼うのはごめんだ」と言ってきていたので、この提案はありがたかった。ここ数日この双子は引き取り手が居らず、私の保健室に居たのだが、さすがに子育てをしながら仕事をするのは楽ではなかったからだ。
あれからチャオは、人の言葉を喋ることはなかったし、やはり別々に動物を抱かせてみても何の反応も無かった事から、先日の私の考えはある程度正しいのだろうという確証もできた。 つまり先日のようなことは、このチャオが二人で手を繋ぎ、動物に触れ(キャプチャ)ない限りは起きないということだ。
そんなことをテイルスに伝え、それから双子は新たな優しい主人と共に、保健室を後にした。


そしてこの保健室と、私の元にようやく『いつも』の平穏な日々が戻ってくることとなった。長かったようで高々二週間弱の出来事であったのだが、いつもの仕事に比べ大分疲れてしまった。しばらく休みたいものだが、今日もチャオガーデンではレースが行われるし、やんちゃなダークチャオはまたいつ転ぶとも知れぬ玉遊びをしているのだろうし、そういうわけにはいかないだろう。
それに、あの疫病神は、今日もチャオガーデンにやって来ているのだ。この平穏な日々もそんなに長く続かないのかもしれない。
だが、少し、それもいい――そう思えた。

……思った時、ばたん! と、絵に描いたような音を立てて、保健室の扉が開かれた。不吉な音。それを聞いて私は強く、前言撤回、と思いつつ、大きなため息をついた。

おわり

このページについて
掲載号
週刊チャオ第47号
ページ番号
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この作品について
タイトル
双子
作者
ひろりん
初回掲載
週刊チャオ第47号