第0話
「ここが…チャオガーデン…」
「そうでございます。坊ちゃま」
その日、僕は初めて、あいつに出会った。
『振り返れば、あの日と同じ坂道』
彼の名前は、伊藤啓作。中学3年生。特技はピアノ。
一見すれば、どこにでもいるごく普通の中学生だが…
何なんだ。僕のいる世界、僕の周りの環境、状態は。
だれもかれも、毎日毎日、つまらない話しをして、つまらない一連の動作。そんな毎日の繰り返し。
学校に行けば、少しは気も晴れるが。
僕だって、友達がいない訳ではない。
だけど、最近になってそいつらにも、うんざりする。
友達−今の僕に、彼等にこんな感情を抱いている僕には、そう呼ぶ資格はないのかもしれないが−の誰もが、受験を迎えている。
やれ順位だの、やれ偏差値だの、と。
どうして、そんなに心配するんだ?
そんなことを、もう、何回彼等に聞いただろう。
だが、そんなことを言うと
「当たり前だろ?お前はバカか?」
毎回の彼等のそんな返答に、うんざりしていた。
家に帰っても、うんざりする日々。
「ただいま…」
少し遅れて返事が返る。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」
更に遅れて、数々の返事。「お帰りなさいませ」「お疲れ様でございます」「お帰りなさいませ」……
いつもの光景。
当然僕も、いつものように
「ただいま」
さっきも言ったのに、つい、もう一度言ってしまう。
「坊ちゃま。今日は、6時からピアノのお稽古。9時から学習塾ですので、お忘れなく」
一番最初に返答した男。田中が、いつものように予定を読み上げる。
「うん。分かってる」
僕も、いつものように返事をする。
メイド達が、僕の鞄を、上着を、いつものように片付ける。
今日もまだ、長い一日は、終わりそうにない。
−−−続