『I was deleted』
「ここは主人の部屋のメモリーカードの中。主人が出掛けているので大変ヒマかと思いきや
意外とのんびり出来るもの。
誰もいない隙にこっそりメモリーカードを抜け出し、ファンからスルッと抜けて
電源を入れて明るい世界を満喫するのだ。その間20秒。」
「じゃ、今回の当番はオレか。チッ、いってきまーす!」
「あーららぁー♪気をつけてねぇ。」
当番というのは電源を入れて、その場で見張りをする係。交代制。
もし主人が帰ってきたときに即座に電源を切るのだ。
テレビの電源は必要ない。操作してチャオガーデンに行く必要もない。
当然チャオガーデンにいないのだからヒマでヒマでしょうがない。
「・・・チッ、やっぱりこの時間はイヤになるぜ。」
ガタッ
「ヤバっ!もう帰ってきたのか?!」
・・・いや違う。階段を上ってくる音が聞こえない。
主人はいない。主人の家族も出掛けてる。ペットはもとから飼ってない。
・・・泥棒?
そんな考えがが脳内を駆けめぐる。
もともとは電子生命体。IQとかは非常に高めである。
・・・どうする? いや、ほおっておくわけには・・・
・・・相談する? いや、まずは様子を見よう。
意を決して扉の向こうへ。戸が半開きだったので助かった。
「熱っ!!なんじゃいこの熱・・・」
言葉を失った。
真っ赤な炎が階段の半分ぐらいまで迫ってきていた。
全速力でメモリーカードに戻る。ファンに引っかかってなかなか戻れ・・たっ!
そういえば電源を切るのを忘れていた・・んなこたどうでもいい。
「おい!電源切らずに戻ってく「火事なんだっ!!」
炎は既に部屋の中に侵入していた。
「なっ!!それで消火は出来るのか?」
「出来そーもねーな。あの階段の半分は埋まってた。すでに見えてるし物量的に無理だ。」
「まあ大丈夫かもしれん。ホラ、この中は暑くない。いけるかもしれん。」
「そ、そうだよなっ!そうだよっ!!」
んなワケねーよ。でもな、他に策がない以上0%でも賭けなきゃなんないんだ。
炎が寸前まで近づいた。それでも温度は全く変わらない。
行けるかな。って思った。
炎はジリジリとメモリーカードを焼いていく。
数匹のチャオが突然消えた。割れてしまったシャボン玉のように。
「おい!どうした!みんな・・・」
次々割れていくシャボン玉。ボクの体にも風が吹いた。
「所詮はデータか・・・」
ずっと前からわかっていたけどここまで痛感させられるとかえって現実味がない。
フッと消えた体・・ いや、霧の分子のように体はないが意識だけは残ってる。
ファンから出られ・・そうだ。だが炎が完全に部屋を覆っている。
窓が開いていた。だがそこから出ようとしても、炎で消えてしまうかもしれない。
それどころか外を出たとしてもなんらかの事故で消えてしまうかもしれない。
消えてしまうことは恐くなかった。
覚悟を決めた。意外と早く空を飛べる。ノーマルタイプなのに。
あっという間に外へでれた。
ごっつい服に「消・・防署」と書かれた服を着た男の人が立っていた。
消防「・・放火か・・残念なことだ。」
放火? 人間の勝手で俺達は?
不思議な感情だった。例えるなら今まさに僕たちを消したあの赤い炎。
憎かった。すると突然真っ白い光がボクを包んだ。
自分の意志でもないのにボクは高く飛んだ。
「・・・あっ。」
主人だ。主人が泣きじゃくっていた。
たぶん僕らのことを頭の片隅に、大事な物が燃えていくのを泣いているのだろう。
もしかしたら頭の片隅にすらないかもしれない。
それでもボクハ ・・・・・ボクのために泣いてくれることが・・・・・
心地よかった。
白い光が一層強くなり、ボクをどこかへ飛ばした。
・・・・・・
一転してとてつもなく真っ暗な世界。だれかいる。
「すんません。」
「あ、いらっしゃーい♪」
・・いらっしゃい?
「ここ・・・どこですか?」
「えーと・・説明してもわかんないと思うんで。好きな数字ってありますか?ただし1以外で。」
・・いや、なぜこんなこと聞かれてるかのほうがわかんないんですが。 「べつに・・」
「あっ、わかりましたー♪じゃ、このボタン押してください♪」
・・真っ赤なボタンだ。よくある一発で科学者の基地が自爆するような。
躊躇する理由もない。まっすぐに腕を伸ばした。
ピッ。 突然足下が青白く光り、ボクはどこかへぶっ飛ばされた。
Please Wait The Next Time.