一章(1)
最近の夕焼けは変わったという年寄りの台詞をよく聞く。汚くなった…というニュアンスを含んでいるそれは大概、昔を惜しんで口ずなさまれている。
確かにこの世は多くの変化に満ちあふれている。その規模もまた様々でマクロなものからミクロなものまでと幅広い。
若者の俺でもこの変化に慣れない、本屋の配置が昨日と変わっているだけで戸惑うし、めんどくさいと感じてしまう。
世界はこのような変化にさらす機会をこれでもかと盛り込んでいる、というのも人類がそのシステムの基を作り上げたのだから自業自得だが。
しかし目まぐるしい変化が当たり前になりつつある世界で、不変のものの需要が高まっている。そもそも変化をするためには必ず基準となるものがなくてはならない。
基準とはいかなる時も同じ意味、価値を維持し続けるものが理想なのだが現実にはそう上手くいかないものだ。
だからこそ誰しもが持つ欲求の根源は「確か」となるもの、言い換えれば「安全」を基軸に形を整えたものでしかない。物語のエンディングに主人公が手にするのは永遠の~といった形容詞が省略されているにすぎないように。
逆にいえば変化を恐れる傾向が誰にしも存在する、根源的な恐怖である。というのも人間は肉体的にも精神的にも不安定だから…と私は考えている。
2014年 4月15日
桜の花が街を彩る今日、風も穏やかで外出するにはもってこいの季節である。河川敷は今日もたくさんの人で賑わっている。
そんな彼らを見下ろしつつ、この温かく心地よい春の陽気を身体で味わいながら散歩をするのは季節行事のようなものだ。
楽しそうな声がどこからも聞こえるが、その中でも一番だ!と人一倍はしゃぐ声が聞こえてくる それも聞きなれた声だ。
「7枚、8枚。…9枚!、やったぁ!新記録達成!!」
俺から三歩後ろの場所で花びらとじゃれている彼女、手には桜の花びらが何枚も握りしめているらしい。
「おしかったな。二桁はもうすぐだったのに」
そう言うと、彼女はまた空に舞う花びらに視線を移した。そしてそれを目で追いかけるのを見てから俺はまた進行方向へと向いた。
すると後ろから髪の毛を触られる感触がした。二度もだ。
「これで大丈夫だよね!」
彼女の両手には全部で11枚の花びらがあった。追加の二枚は俺の髪についていたものらしい。
すると一度両手を固く閉じ、それを勢いよく上で開いた。
花びらは風にのり、俺らの場所を離れて見えなくなっていく。その様子を二人で見届けた。
「桜ってどうしてすぐ散るんだろうね?」
「すぐ散る位儚いから綺麗なんだよ。」
「桜は散らなくても綺麗だよ!」
「散ることで印象深く映るんだって。」
そう言うことで事を切り上げて先へと進む、しかし彼女は何を思っているのかその場から動こうとしない。
気づいていない彼女に充分に聞こえる大きさで叫んだ。
「まみ!置いて行くぞ!!」
「あ!待ってよ!! ろー!」
後ろからまみが走って追いかけてくる、このアングルからの映像を昔も見た。
色々と景色の様子は異なっていた、あれは11月の夜更けのことだ。
初めて会った時、彼女まみは家出少女だった。
街中で一人ただずんでいる少女はさみしそうな表情を浮かべながら動こうとしなかった。
後になって行くあてがなかった…と彼女は笑い話にする。実際に笑えないパターンも多く存在するので俺なら冷や汗ものだが。
とにかく彼女は目的もなしにここへ来た、お金も連絡手段も手荷物一切なし身一つの状態、いわゆるNAKED(丸裸)だ。
それで途方に暮れていたところ、たまたま俺と話す機会があった。(やらしい意味じゃなくて)
それが初対面で、まみにとっては唯一できた接点であった。
それで今日に至る。 三年前の話だ。
「ろー、今日もお店行くんだよね?」
「行くよ。」
「最近ろーはあの店に毎日行くけど何かあったの?」
「…仕事だよ。」
「本当に~?」
「…飯ぬきにするぞ。」
そういうと彼女はごめんごめんと笑う。
三年前の記憶でもまみはこの調子で俺についてきていた、あの時は変な拾いものをしたという気持ちもあったが…。
今はずっとついてきてほしいと思っている。恥ずかしいから言えないけど。
そんな調子で俺たちはお店へと向かうのだった。
STONEBACKS COFFEE、通称ストバに俺とまみはいた。
とあるビルの一角にあり、河川敷の風景を楽しめる穴場スポットである。
大通りからは少し外れているため静かで、客入りも多すぎず少なすぎず雰囲気も壊さずでいい感じの店だ。
カフェとしての利用もだが、待ち合わせとして利用されることも多いストバ。俺たちも今日は待ち合わせのために来た。
「ろー、ごちになりま~す♪」
お茶をしにきたわけではない、決して。
「よぉ 呂!今日はまみちゃんも一緒か。」
「いしごさん!」
会話に入ってきたのは、中富 石悟(なかとみ いしご)。こいつとはもう5年の長い付き合いがある。
俺が独りの時から何かと絡んでいた。もちろんまみのことも知っているし、二人の出会いから今日までのエピソードを語れる友人だ。(結婚式の仲人はするとしたらこいつだな。)
特徴はいつも黒のテンガロンハットを被っていること。後この店のオーナーである。
「まみちゃんは久々だろ、奢るよ?」
「ごちになりま~す♪」
「呂はいっっちばん安いのでいいよな?」
「いいけど強調しすぎだろ」