Data−Remains.1

―被害者は、高校一年生の和田 須磨(15)です―
今朝のニュースを見ながら、その少年はパンを取り落とした。

―被害者は、近日流行に乗っている“チャオ”愛好の掲示板、チャオBBSにて活躍している小説家でありました―
アナウンサーがすらすらと告げる内容を耳にしながら、その少年はコーヒーを吹いた。

―被害者は、後頭部に強い打撲を受けており、検死結果によれば、即死だそうです―
ありえない事実に驚愕して、その少年はしばらく固まっていた。

―被害者宅には更に、荒らし回った形跡があり、通帳が盗まれていた事から、警察は窃盗目的の他殺と見て、捜査を進めています―
音声を聞き入れ、その少年はゆっくりと唇の形を歪めていった。


―次のニュースをお伝えします―


狭いアパートの一角に、体を青に染めたチャオが5匹。
黄色い線で張られた「KEEP OUT」の文字が黒光りしている。
「まさに、完全犯罪だな…」
紫のチャオが言う。彼はこの5匹の中でも、逸脱して頭脳明晰、冷静沈着のリーダー的存在なのだ。
対して、赤を顕す情熱的な進化を遂げたチャオは、
「こうなったら、ここの近辺の奴らを全部洗えばいいんじゃねえか?」
「犯人は睨んだだけで相手を石にするらしいから、無理そうだね」
直情な発想に指摘するのは、白を冠した天使の姿である。
「だとすれば僕らも危ないんじゃないチャオか?」
空を連想させる風体を掲げたその小柄のチャオは、呆れた声で言う。
すると、占めに黄色のチャオが、こっそりと言った。
「何せ、パソコンを移動する犯人らしいですし」


Data−Remains.1,「C−5」


「エム、資料は集めておいたぜ」
紫のチャオに、コードネームのまま呼ぶ彼、赤い「エス」は、チャオの体ながら手際よく書類を分割していく。
「ああ、礼を言う。ひとまず、容疑の深そうな者を洗ってくれ」
操作の欠片も分からない高度そうな機械を手足のごとく操りながら、エムは頼んだ。
「ほどほどにしとけよ。疲労で倒れられたらしゃれんなんねーぜ。アイが怒るだろうし」
「はは。考えておこう」
全く本気にしていない事が見え見えな態度―
しかし、エムには「事件を解決する事」しか見えていない。
「しっかしまあ、C−5本部も寂れたもんだね。娯楽の1つも無いとは」
「事件に関係無い物は必要無いー、エムがそんな事口走るからチャオ」
天使も誉れ高い「エフ」の意見に同意し、空色の「ビー」がやはり呆れ声で言う。
黄色の「アイ」は黙々と仕事をこなし、久方振りのC−5総動員だった。
忙しなく動いているのはC−5員だけでなく、各々のパソコンも動いており、部屋には足場も無いほどの机と棚で覆われていた。
Chao-Strict-Secrecy-5-Union、略称をC−5。
人間より遥かに頭脳レベルが高いとされる人工生命体、A−LIFEの施設をトップで卒業した者達によって構成される、まさに特殊捜索部隊であった。
「何か分かったかい、エム?」
「全くだ」
お手上げの図を示し、エムは溜息を吐いた。
「まず先に、容疑者の範囲が広すぎる」
「そうでも無いぜ」
さっと書類を上げたエスが、得意げに鼻高く言った。
「動機って線もある。被害者は学生だ。同じ高校に通う奴等の中に、必ずいる」
「でかしたチャオ、エス」
「噂をすれば、ですね」
機械が反応した。巨大スクリーンに、砂嵐が呼び起こされた。


「ここに侵入するのに結構な時間を費やしたよ、諸君。僕の名はろっど。予想通り、和田 須磨を殺害した犯人だ」
(やはりか…一体、奴はどうやってここのセキュリティに侵入をしたんだ…)
(ちっ、気にくわねえ奴だ)
(ろっど―ネーミングセンスが一般的だね…)
(何を要求するつもりチャオか、奴は?)
(逆探知は…無理そうですね)
五者五様の反応を示し、犯人である「ろっど」は、続ける。
「僕は和田 須磨の友人の1人だ。そして、僕は」
そして、自分にとって不利になるであろう情報を、与えるように叫ぶ。
「彼と同じ高等学校に通う、同じ学年、そして彼のクラスメートだ」
その声が笑っている事に気付いたのは、相当後になってからだった。


佐藤 光。被害者、和田 須磨と同じ高等学校に通う、1−Aのクラスメート。
吉田 龍一。同じく、クラスメート。
石川 秀介。同じく、クラスメート。
桟橋 優。同じく、クラスメート。
「特に和田 須磨と親しかった連中は以上だ」
エムが断言し、会議は終了する。
C−5総動員の手がける、最後の事件になるかもしれなかった。
しかし、それでも彼らは事件の解決に乗り出す。
「ろっどはこれを、一種の“ゲーム”と捉えている。だが、我々が勝利する“ゲーム”だ。奴は目で他人を石化させる能力を持つらしいが、好きにはさせない」
「何せこっちはチャオだからな」
「キャプチャー出きるし、うん、楽しそうだ」
「開幕チャオね」
「ほどほどにして置いて下さいよ」
C−5とは、それぞれに違う人格にしても、心は1つなのだった。

「ろっどは、この中にいる!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
1 / 4
この作品について
タイトル
Data−Remains.
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第258号