(7)

 その銃弾は綺麗な直線を描いて、黒幕の球体を撃ち抜いた。
 もう一発放たれた銃弾は、反逆者と偽っていたコードCHAOの球体をも撃ち抜く。
 総司令官室の入り口に立っていたのは、今年の研修生一のエリート兵士だった。

「なぜッ……生きている!?」
「殺されてないからだ」

 仲神春樹はハンドガンを手にしたまま言う。

「もうキャプチャー能力もない。総督は大倉仁恵が狙っている。お前の負けだ」
「くそ……なぜ人間はこうも、こうもこうもこうも!! ワタシはただ、死にたくないだけなのに!!」

 錯乱したように叫ぶ黒幕。大倉仁恵には姿が見えない。しかし声だけは聞こえる。

「自然を破壊しているのは人間、貴様らだ! 貴様らは悪だ! 自然を破壊する貴様らは傲慢にも自らを正義と考えている! ワタシは、他の生命を駆逐する貴様らが許せない!!」
「分かってるとも。だからボクは、お前たちを助けに来たんだ」
「信じられるか! 散々破壊して置いて、何が助けに来た、だ! 貴様らは結局、死によってしか償えん!!」
「ワタシが話した。コードCHAOの正体を」

 静かに歩く、コードCHAO。
 仲神春樹とともに来た、一人で戦うコードCHAOは、黒幕の前に立つ。

「植物とは生命だ。意志はある。しかし植物そのものにはない。ワタシたちが植物の意志そのものだという事を」
「人間に飼い慣らされた犬め! 貴様のような輩がいるから……!」
「だから助けに来たと言っているだろう。ボクは人間に生まれたが、人間には散々うんざりしている。今回の地球自然回復計画にも若干賛成しているぐらいだ。だが、コードCHAOはそれで救われるか? 生命は助かるかもしれない。しかし心は? 罪の意識というものは、よほど扱うに長けたものでなければ——」
「黙れ、黙れこのッ!」

 黒幕は怒りの形相で仲神春樹を睨み付ける。どこまでも冷静な表情で、仲神春樹は黒幕とにらみ合う。

「……総督、私は平和であれば構わないと思って来ました。ですがコードCHAOはそう思っていません。少しでもそう思う人がいる限り、私たち大多数は行動すべきです」
「……そうだな。私もそう思う。だから……」

 総督の行動は早かった。
 腰のホルダーからハンドガンを抜き、仲神春樹の心臓部分を撃ち抜いたのだ。
 悲鳴さえ上げられずに春樹は倒れこむ。大倉仁恵は総督のハンドガンを撃ち、真っ青な表情で春樹の下へ駆け付けた。

「だがね、私は人類がどうなろうと知った事ではないのだ」
「くっ……総督!」
「コードCHAOがどうなろうとも私の知った事ではない。ただ私は下らぬ世界にうんざりしていた。だから作り変える為に、私は存在しているのだ」

 そういう総督の表情は冷たかった。まるで何もない。無そのものだ。それゆえに感動もしなければ悔やみもしない。

「春樹! 春樹!!」
「軍曹……ボクは殉職ですか。二階級……特進です。研修生から……一気に軍曹と同じ立場まで上がりました……だから、もう軍曹から教えられる事はありません……」
「や、やめて……死なないで……」
「……総督、確かに下らない。だけど……ボクは……少数派なんだ……多くの人間が生きたいと願っている以上、見捨てる事は、出来ない……」

 目元に隈が出来ている。体は異様に冷たかった。
 コードCHAOは思考をめぐらせる。総督を殺すか? いや、彼はもう何も出来ないだろう。キャプチャー能力をもってして仲神春樹を救えないか? 不可能だ。
 キャプチャー能力は万能ではない。例え銃弾を取り除いたとしても……。

「大倉、退け。体をゆするな。応急処置を」
「副司令、ありがとうございます……ボクは他人に分かってもらえたのは、生まれて初めて、です」
「……仲神春樹」
「……はは、死ぬのか。そうか。案外、悪い気分じゃないな……」

 仲神春樹の視界はぼやけていた。思考すらぼやけて、何がどこにあるのか、自分は何なのか、よく分からない状況に立たされている。
 客観的に物事を見るというのは、こういう事なのだろうか。今、自分はここで死にそうになって倒れている。その状況にすら疑問を抱く仲神春樹。何が起こっているのか脳が付いていかない。
 だが、分かる。もう、命は消えかけているという事が。

「ボクの代わりに……コードCHAOを助けてやってくれ……」
「か、代わりだなんて、言わないでよう……」
「分かった。約束しよう」

 最後まで無表情のまま、仲神春樹は目をゆっくりと閉じた。
 どれくらいの時間が経っただろうか。さほど時間が経っていない気もするし、経った気もする。コードCHAOは、自分が悲しんでいる現状に気づいた。
 自分が悲しむという事は、他のコードCHAOも悲しんでいる。大自然の全てが彼の死を悲しみ、慈しんでいる。

 自然に愛された少年とは、彼の事なのだろうか。
 冷酷で冷静に見えた仲神春樹は、情に厚いただの人間だった。コードCHAOはただそれだけを理解し、彼との約束を果たすべく、黒幕に手を差し伸べる。


 ——仲神春樹との約束を果たそう。ワタシたちが一丸となって。


 7 死をもって伝えること

このページについて
掲載号
週刊チャオ第331号
ページ番号
8 / 19
この作品について
タイトル
コードCHAOを抹殺せよ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第331号
最終掲載
2010年1月6日
連載期間
約1年5ヵ月12日