Scene:8

「もしもしー?もしもーし?」
女性の声が聞こえる。どこかで聞き覚えのある声。
どこで聞いた声だっただろうか…

彼がその声の主を思い出した瞬間、目が覚めた。

彼の目の前に立っていたのは、その『声の主』である少女。…即ち、自らがチャオの世界に転生する際に案内をしてくれた、あの神様のような少女である。
「あ、あれ?オレは確か、チャオガーデンで…」
そう言い辺りを見回すが、周囲は真っ暗。暗闇の中で、椅子に座った彼女の周囲だけスポットライトに照らされたように明かりが灯され、はっきりと姿が見える。

「はい、お疲れ様でしたー。どうでしたか?自分の生い立ちを探る異世界生活は」
少年の戸惑いを気にすることなく、そう彼女は話しかけた。

「え…?どうもこうも、オレは異世界転生して、チャオの世界で生きていくんじゃないんですか?」
「あーいや、たまーに勘違いする人いますけど、異世界で『答え』を見つけたら戻ってこれますからね?もちろん、その『答え』を見つけられずに異世界で寿命迎えちゃう人とか、俺TUEEEEのハーレム生活から戻りたくない!って駄々っ子のように全力抵抗する人とかいますけど」

彼女の話をそこまで聞いて、何やら、自分はとんでもない思い違いをしていたのかも知れない、と少年は思い始めた。
いや、そもそもこの異世界転生が生い立ちの『答え』を見つけるためのものだとは一言も聞いていない。それが彼女の単純な伝達ミスなのか、敢えてミスリードを狙って伝えていなかったのかは分からないが、その辺りをちゃんと最初に聞いてみるべきだったな、と少年は今にして思った。

そこで、彼は思い切ってこの質問をぶつけた。
「…そもそもですけど、オレ、元の世界でトラックに轢かれて死んだんじゃないんですか?」
「いや、死んでませんよ?そもそもあたし、『貴方は死にました』的なこと、言ってないですよね?」
その疑問に対する彼女の答えは、スッパリ単純明快だった。拍子抜けする少年。

「え、でも、あの時、オレの状況を『グロ注意』って…」
「確かにそんな感じの状況だったけど、だからって死ぬとは限らないじゃない?人間って意外としぶといしねー」
そうだ。この言葉で自分は勘違いしてしまったのだ、と少年は思い返す。少年は彼女のこの表現について、わざとミスリードを狙ったものではないかと疑ったが、この疑問には恐らく答えてはくれないだろう、と胸にしまうことにした。

そんな疑いを他所に、彼女はこう続けた。
「さて、改めて!貴方はトラックに轢かれながらも奇跡的に一命を取り留め、病院で1ヵ月ほど昏睡状態になっていたけど意識を回復する、というところから元の人生を再開します!準備はいいですかー?」
「え、あ、はい…」
急展開に頭がついていけず、とりあえず返事をしただけの少年。

「元の世界での生活で、異世界体験を活かすも殺すも貴方次第!それでは、良き人生を!」
そう彼女は締めて、何もない空間から現れた端末状のホログラムを操作しようとする。
「あ、あの…」
そこで、少年が話しかけた。
「何でしょう?」
「これからの人生、オレの異世界生活は無駄にならないと思います。ありがとう、ございました!」
そう告げて、深々と頭を下げる。
「いえいえ、どういたしまして!それでは、グッドラック!」
彼女はニコリと笑い、端末状のホログラムのエンターキーにあたる部分を押す。次の瞬間、彼の意識は再び暗闇へと消えていった。

「…そういえば、『彼女』は戻ってこれるんでしょうかねー。ま、戻ることが幸せかどうかは人それぞれですけどねー」
そして、そう独り言をつぶやいた後、彼女もまたその場から消えた。いつぞやと同じように、明かりに灯された椅子だけが暗闇の中に残っていたが、それもしばらくして消えて、再びその場は暗闇に戻った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ チャオ20周年記念号
ページ番号
10 / 11
この作品について
タイトル
「Children's Requiem」
作者
ホップスター
初回掲載
2018年10月23日