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『努力すれば必ず成功するとは限らない―――が、成功した者は須らく努力している』
とはまぁよく言われる話であり、彼もまた、そんな格言を身をもって体感した人物の一人である。
推薦でサッカーの名門高校に入学し、ともすれば前時代的な、ネットに流れればブラック部活だと総叩きに遭いそうなほどの猛練習を重ね、苦労の果てにようやくレギュラーを掴んだ…が、3年生になって迎えた県予選は惜しくも決勝で敗退し、ついに全国大会には出れないまま3年間の高校生活を終えることになった。
「お前ぐらいなら、どっか推薦でいい大学入れるんじゃねぇの」
「いやー、掛け合ってみたけど『やっぱり全国出てるのと出てないのとでは向こうの印象が全然違う』ってさ」
「そんなもんかー。でもキャプテンの山本は2部とはいえプロ入りすんだろ?」
「あいつはオレらとは全然違うよ。オレもサッカー好きだけど、傍から見てて『コイツサッカー好きすぎて頭ヤベぇんじゃねぇのか』ってなるレベル。それぐらいじゃないと、プロにはなれないんだよ、やっぱり」
「お前が言うってことは相当だなぁ…今のうちにサインとか貰っといた方がいいのか?」
「貰っとけ貰っとけ。ちなみにオレは3枚貰った!」
「ちゃっかりしてんなおい!」

…もっとも、当然の話ではあるが、プロに入ったからといって活躍できるとは限らない。むしろ大半の選手が活躍できずにいつの間にかひっそりと消えていく厳しい世界である。彼の手元にある3枚のサインがお宝になるのか、それともただの紙切れになるのかは、まだ誰にも分からない。

「でも、推薦貰えないってなると、お前これからどうすんだ?就職?」
「そうだなぁ、いつまでも叔父さんに頼る訳にもいかねぇしなぁ…」

実は彼、両親がいない。
彼の両親は彼が1歳の時に、不慮の事故で帰らぬ人となった。それ以来、叔父夫婦の家に引き取られ、そこで育ってきた。
幸い叔父も叔母も悪い人ではなく、彼を我が子と変わらぬように大事に育て、おかげで彼はサッカーの名門高校でレギュラーになれるような立派な少年になったという訳だ。

「一応、中堅クラスの私立大学なら自己推薦でいけるんじゃないかって話だけど、奨学金もらったとしても学費がなぁ…でも就職する、つってもこんな田舎で高卒じゃ食っていけるかどうかレベルにしかならねぇし、かといって上京は…」
「って、おい、ちょっと待て!!!」

…友人が必死に叫んだが、彼は考えながら喋るのに夢中で、歩みを止めなかった。
彼がようやく気が付いた時には、目の前に、大きなトラックの姿があった。彼は一瞬、何が起こっているのか分からずに思考回路を巡らせたが、全てを理解した時には、既に―――

このページについて
掲載号
週刊チャオ チャオ20周年記念号
ページ番号
2 / 11
この作品について
タイトル
「Children's Requiem」
作者
ホップスター
初回掲載
2018年10月23日