~プロローグ~
「みーん みーん」
せみの鳴き声が響き渡っていました。
ここは、とある港町。ただ、小さな漁船が数回行き来する港があるだけの町だけれど・・・
これといって普通の町と変わったところはありません。田舎でも、都会でもない町です。
今は8月の中旬。夏の本番を迎えるころです。この町で生まれ、一緒に育った一人と一匹。その一人と一匹は、いつも一緒でした。そんな一人と一匹は、いずれ、大きな問題にぶつかるでしょう。それももう遠くはありませんでした。今からそれが始まろうとしていたのですから。だけど、一人と一匹はそんなことが起きるなんて、夢にも思っていませんでした。
ここは、夏の香りを運ぶ風と、さわやかな波が打ちつける小さな港から数十kmくらいはなれたところにある一軒家。そこには、ほかの子と、少しはなれた「登(ノボル)」という学生と、「翔(カケル)」というチャオがすんでいました。登という少年は幼いころ、両親を事故で亡くし、祖父にひきとられて育ちました。なので、同じ年頃の子達とは、ほとんど一緒に遊ぶ機会はありませんでした。でも、翔とは、物心つく前から、ずっと一緒に暮らしてきた親友でした。家族でもありました。それだけでもなくて、登の心の支えになっていました。それと同様に、翔にとっても、登は、かけがえの無い存在でした。翔の事は、ほとんどわかりません。でも、それでも、ひとつだけ、ハッキリとしたことがありました。それは、登と翔は、強い絆で結ばれている。そう、それだけの事ですが、そんなに大きなことでもあります。これから一人と一匹に、辛い試練が待っています。でも、一人と一匹の絆は、決して変わらないでしょう。そう、どんなことがあっても・・・。