第１６話・二匹のチャオ

ものすごい力で持ち上げられ、
直後にそれとは不釣合いな優しい声で問いかけられたティル。

宙に持ち上げられ、手足をばたつかせることしかできないため
仕方なしにそっと目を開けました。


真っ黒な体に、鋭い目つき。
頭の上にふわふわと浮かぶ、とげ付の紫色のボール・・・


見たこともないチャオがティルの視界に入り込んでいました。


「君は・・・　　誰？」

とっさにティルの口からそんな言葉が飛び出していました。

「『君は誰？』だって？」
相手のチャオは、ティルをゆっくりと地面に下ろしながら話を続けます。

「その質問、そっくりそのまま返してやるよ。」

とても大きく、どこかひょうきんな感じを受ける声です。

「ここは、オレとどくたーの・・・



ここまで来たところで、ティルはキャスのことを思い出しました。

「そうだ、君「キャス」っていうチャオを知らない？」

「「キャス」？　　そんなヤツは知らねーよ。
　まぁ、どくたーならともかくな。」

「どくたー？」

「馬鹿やろう！　
　おまえが「どくたー」なんて呼ぶんじゃねぇよ！」

さっきまではおとなしかったそのチャオが、
急に大きな声を出します。
それに、おどろいたティルはとっさに口を閉じました。

「いいか。どくたーは、「ぜんちぜんのう」にして
　「さかいさいこうのてんさい」なんだぞ。
　それに「あくのてんさいかがくしゃ」で
　いつも邪魔する「青いハリネズミ」と必死に戦ってるんだ。」

「・・・それで？」

難しい言葉がよくわからず、ティルが問いかけます。
すると相手は憤慨したようで、真っ赤な顔で叫びました。

「つ・ま・り！
　オレの飼い主をお前が気安く呼ぶことは、許されないんだ？」

「ふ～ん・・・
　じゃあ、なんて呼べばいいの？」

「!!」

ティルの言葉に、相手のチャオは急に言葉を詰まらせ、頭の上に「？」マークを浮かべました。


数分後・どうやら、考えがまとまったようで
自信満々に話をつなげました。

「いいか、お前がどくたーのことを呼ぶ時は
尊敬の気持ちをこめて、こう呼ぶんだ。
『せかいさいこう、せかいさいだい、れきしになをのこすあくのてんさいかがくしゃ、どくたー・えっぐまんさま』ってな。」

「・・・」

あまりに長く、難しい名前だと勘違いしたティルは
言葉が出ません。
ですが相手の「さあ言ってみろ」という言葉に
もう、途切れ途切れの記憶を頼りにその名前を繰り返してみます。

「せかい・・・　さいこう
　せ・・かい・・・壮・・・大？
　積み木・・・に名前を書いた・・どくだみまんさま？」


「ちが～う！」

またもや相手もチャオの叫び声が響きます。

「いいか？
『せかいさいこう　せかい・・・災害
　レッシーに名前を呼ぶ　ドクタードリト・・・』だ！」


もはや、相手もチャオも忘れかけているようです。

「・・・・？」　　

「『・・・・・』!!」

「・・・・・？」　

「ちがーう！　りぴーとあふたみー！
『・・・・・』」

「・・・・・・？」

そんな調子で、数時間もの間二人のチャオの会話は続きました・・・