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「君の弱さが、今回の事件を起こしたことは疑いがありません。その弱さを克服できない限り、君はまた同じような事件を起こすことになるでしょう。また誰かに同じようなことを強要された時、君はどうするつもりですか?」

チャオが、裁判官に向かって一歩踏み出した。
僕は、そのチャオを引き止めた。
そして、抱っこしてチャオの顔を見つめた。

チャオの中では力強いオニチャオとはいえ、体の大きな人間相手には勝ち目はないだろう。
それでも、このチャオは、僕のために立ち向かおうとした。
なぜ、そんなことができるのか、チャオの目を見ていると、その答えがわかってきた。
チャオの目には「勇気」があふれていた。
それは、僕にもっとも欠けているものだった。

そのことに気づいた僕は、チャオを降ろすと裁判官に向き直って答えた。

「その時は……、僕は、もう逃げたりしません。立ち向かう勇気を、このチャオが教えてくれたから」

僕がそう言うと、裁判官は僕の目を、じっと見つめてきた。
僕は、今度は目を逸らさずに、裁判官の目を見ることができた。

「わかりました。この言葉を聞けただけで『チャオ裁判』を行った甲斐がありました。これで『チャオ裁判』は閉廷します。判決は後日改めて言い渡すことにしましょう」

そう言うと裁判官は去っていった。
僕は、チャオと一緒にその後ろ姿を見送った。
どんな判決になっても、今の僕なら受け止めることができると思う。


あれから、何ヶ月かが過ぎた。
僕は今、あのチャオと一緒に暮らしている。
進化したての頃はオレンジ色だったけど、今ではすっかり赤い色になっていた。
体が赤くなっていくのはオニチャオの特徴らしい。
でも、詳しい人に聞くと、このチャオはまだ「二次進化」していないらしい。
これから、このコがどう成長していくか、僕はとても楽しみにしているんだ。

僕達が出会うキッカケになったあの裁判は、僕の無罪の判決で終わった。
このチャオが、僕の無実を証明してくれたんだ。

そして、僕をおとしいれたあいつが逮捕された。
あいつの表の知り合いの目はごまかせても、裏の繋がりを完全に隠し通すことはできなかった。
僕の『チャオ裁判』の結果を受けて、警察が威信を懸けてあいつの悪事の証拠を探し出したんだ。
最初からそうしてくれていたら、僕がこんな目にあうこともなかったのだけれど、このチャオと出会うことができたから、あの裁判があって良かったのかもしれないと思う。

このチャオは、今では僕の親友になった。
人生を変えてくれた大事な友達を、僕はこう呼んでいる。

「ユウキ」

ほんのちょっと勇気を出すことで、自分を変えることができる。
君が教えてくれたことを、これからも大切にしていこうと思う。





このページについて
掲載号
週刊チャオ第118号
ページ番号
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この作品について
タイトル
チャオ裁判 その3
作者
懐仲時計
初回掲載
週刊チャオ第118号