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「疑わしきは罰せず」
本来、裁判のあるべき姿である。
しかし、多発する犯罪、犯罪者の低年齢化という問題が、その基本をも危うくしていた。
無罪となった「疑わしき者」が、新たな犯罪を起こすという悪循環も、すでに現実のものとなっていた。
この局面において、司法は一つの決断を下した。
人の心を映す鏡と言われる「チャオ」を、裁判の重要な証拠の一つとしたのである。
「被告人を有罪とするに足る十分な証拠はない。しかし、無罪とするにもいたらない。
そこで、被告人を『チャオ裁判』にかけることとする」
裁判官の、この決断は、妥当なところだろう。
まぁ、実際、証拠がないだけだもんな。
「ここに生まれたばかりのチャオがいる。被告人は、このチャオと1ヶ月の間、共に生活し、その心をチャオに映してもらうこととする」
へっ。
分かってるんだよ。
「ヒーローチャオ」に進化させれば、無罪放免ってことだろ?
簡単なことだ。
俺は、自信を持って、こう答えた。
「分かりました。このチャオに、私の無実を証明してもらいます」
こうして、俺とチャオの1ヶ月が始まった。
ヒーローチャオに進化させるなんて簡単さ。
とにかく、チャオを大切に可愛がってやればいいんだよ。
心を映す?
自分を可愛がってくれる人間を「悪」だと言えるか?
そういうこった。
ま、とりあえず、チャオが喜ぶことをしてやるか。
まずは、やさしく頭を撫でてやる。
そして、抱っこして、ほれ、高い高い。
お、喜んでるぞ。
よ~し、もう一回、高い高い~。
おっと、大事なことを忘れるところだったぜ。
ほれ、木の実だ。
うまいだろ?
お前に気に入られるために、わざわざ極上のものを買ってきたんだぞ。
これで、俺を裏切ったら、分かってるよな?
こんな感じで1週間が過ぎた。
へっ。
やっぱり、簡単なこったぜ。
もう、こんなに懐いてやがる。
ほっといても近づいてくるし、抱っこすると大はしゃぎだ。
こりゃ、俺の無罪は約束されたも同然だな。
さらに1週間たった。
はは、本気で俺に懐いてるのか?
利用されてるだけだってのに、単純なもんだよなぁ・・・。
そして3週目になった。
ほ~ら、高い高い~。
どうだ?美味い木の実だろ?
なんたって、お前のために俺が選びに選んだんだからな。
お前の好きなもんくらい、よぉ~く分かってるんだぜ。
「お前」?
そうだ。
今更だが、お前に名前を付けてやらないとな。
そうだなぁ。
どんな名前がいいかな?
ちょっと待っとけ、すぐに決めてやるからな。
・・・・・・。
・・・・・・。
よし、お前の名前は『ナッツ』だ。
へへっ、どうだ?
気に入ったか?
遂に、最後の1週間になった。
拘置所に逆戻りだ。
『ナッツ』が、いつ進化してもいいようにってわけだな。
望むところだぜ。
『ナッツ』と一緒なら、どこにでも行ってやるよ。
「そろそろ進化する頃ですね」
そう言って裁判官が入ってきた時、すでに『ナッツ』はマユに包まれていた。
さて、真っ白なヒーローチャオになって、マユから出てきてくれるんだろ?
あんだけ可愛がってやったんだからな。
ゆっくりとマユの色が薄くなっていく。
だんだんと『ナッツ』の姿が見えるようになっていく。
その姿は・・・。
???
白くなっていない?
ヒーローチャオに進化しなかったのか?
いや、ヒーローチャオにならなかっただけじゃない?
黒い?
黒いチャオになっている?
まさか?
ダークチャオになったというのか?
どういうことだ?
どういうことだ?
『ナッツ』どういうことなんだよ?