(中編)ページ5

「おぉっ、なにやらただならぬ雰囲気!うむ、強打者の匂いがぷんぷんするぞ!」

にんまりと不気味な笑みを浮かべるレッドと、凛とした表情でピクリともせずにバットを構えた状態で静止するピンク。その構えは右打ちのモノだ。
二人の間には、張り詰めた空気が流れ、その流れを断ち切ったのはレッドだった。

「行くぞピンク隊員!きえぇい!」

きっと、受信すると気が狂う怪電波みたいなモノなんだろう。そんな感じの音を発しながら、レッドは前の二人に投げた球と変わらない、ど真ん中ストレートを思い切り投げ込む。
その球筋をしっかりと見極め、ピンクはバットを振った。残像が見えるような、美しいスイングだった。

カキン!

その美しいスイングによってはじき返されたボールは、ライナーでレッドの頭上を抜いていった。
試合なら、文句のつけようが無い綺麗なセンター前ヒットだろう。

「おおぅ、素晴らしいぞピンク君!君にこんな才能があったとは!」
「…」

気分爽快な当たりをかっ飛ばしたピンクだが、その表情は晴れやかではなかった。今の当たりに不満でもあったというのか。
しばらく両手に持つバットをじっと見つめていたが、はっ、と気づいたように、

「ブルーさん、コレは、その…こう打ってもよろしいのですか?」

そう言ってピンクは、バットを構えて見せた。ただし、先ほどとは逆…つまり、左打者の構え。

「え?えぇ、もちろん構いませんよ」
「そうですか…」

2,3回左で素振りをした後、

「レッドさん、もう一球投げてくださる?」

そう、要求した。

「いいだろう、何球でも投げてやる!今度は先ほどのようにはいかんぞ!」

左打者になったピンクに、レッドは球を投じた。もう言葉では表現出来ないような、聞いたら3日後に死んでしまいそうな怪音を発して。

「…」

そんな音は聞く耳持たず、ピンクの鷹の目のような眼差しが捕らえているのは、唯一つ。
わざわざ狩られに出向いてきた、愚かな獲物――真っ直ぐコチラへ向かってくる白球、ただそれだけだった。

カッキーン!

バット一閃。高速に、そして迷い無く振りぬかれたバットによって、白球はレッドの頭上を矢となって駆け抜けた。
文句の付け所などありはしない、完璧かつ、見るものを魅了すらするセンター前ヒット。
打球は岩壁を直撃、地面にポトリと落ちた。

「…コチラのほうが、しっくりきます」

誰もがあっけに取られている中、ピンクは静かに、そして満足そうに呟いた。



「エクセレントだよピンク君!キミこそ我がチャオレンジャーズが最も求めていた選手だ!キミはチャオ野球界の至宝だ!」
「こんな簡単なコト、誰だって出来ます。……でもまぁ、悪い気はしませんわね」

さりげなく照れを隠しつつ、さりげなく喜びつつ。
ピンクは、そばにいたAにバットを渡した。

「さぁ、皆の衆もピンク隊員に続きたまえ!ドンドン行こうではないか!」

その後も、レッド相手によるバッティング練習は続いた。
グリーンは相変わらず扇風機状態で、ブルーは5回に1回ぐらいいい当たりを放ち、ピンクのバットは100発100中、振ればヒットの打ち出の小槌。イエローは寝てた。
A~Dの皆さんは、まぁ、打ったり打たなかったり。(ひでぇ。byA~D)
結局この日の練習は、日が暮れるまで続いた。

「うむ!今日の練習で皆の衆のバッティングレベルは35ぐらいあがったぞ!やつらおねしょ戦隊のレベルは40ちょっとだろうから、一週間もあれば楽勝だな!」
「相手が200レベルぐらいあったらどうしますか?」
「1日で35レベル上がったのだ!1週間で245レベルだ!心配など全く必要ないではないか!」
「さいですか」

ブルーはこの日3度目となる台詞をつぶやいて、この日何度目かわからない嘆息をした。

「とにかく今日はご苦労だった皆の衆!明日もまた、ココで練習を行う!集合時間は明朝2時!遅刻は許さん!では解散!」

ソレは明朝ではなく深夜と言うのだ、と誰もが突っ込もうとして、やめた。どうせコイツだって起きてくるワケ無いんだから。
ともかく、今日の収穫があったのか無かったのかよくわからない練習は幕を下ろし、A~Dの皆さんはステーションスクエアガーデンへ帰っていった。
チャオレンジャー達は、

「腹減った」

と、ステーションスクエアガーデンへの転移装置に乗っては、消えていった。イエローは寝てた。


…さて。こんな感じの練習風景が、決戦の日までミスティックルーインガーデンで繰り返し繰り広げられるコトなる。
とりあえず、冒頭でチャオレンジャー達とオモレンジャー達が野球をしていた理由をわかって頂いたところで、時間は冒頭のシーンの少し前――試合当日の朝に移り変わる。

後編へ続く?

このページについて
掲載号
週刊チャオ第195号
ページ番号
12 / 12
この作品について
タイトル
チビッコ戦隊チャオレンジャー!~VSおねしょ戦隊オモレンジャー!編~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第194号
最終掲載
週刊チャオ第195号
連載期間
約8日