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本当は、聞こえるのかもしれない。
とにかく、一言、言わなくちゃ。チーターの尻尾、好きだって。またレースをしようなって。出来るかなんてわからないけれど。

滝の横の、高く崖のようになっているところで、見つけた。
白い繭に包まれているチャオがぽつんと、そこに在る。中はもう見えないけれど、わかる。あいつだ。
ウサギの足は、伊達ではない。まるでこの時のための足であるかのごとく、その力を発揮してくれた。瞬く間に登りきり、あいつの前にたどり着いた。
――あ、あの、あのね、
うまく言葉にならない。言う間にも繭は濃くなっていく。そろそろ、
――レース、まだ、やり足りないよ。もっとやろう…もっと…
真っ白になった。
――お前の尻尾、嫌いなんかじゃない!

真っ白な繭が薄れて、中から、彼が見慣れていたものよりちょっとでかくなったチーターのパーツを身に付けたチャオが出てきた。

自分でも驚くほど情けない声が出た。
そう。つまるところ彼は、チャオが大人になる時にも繭に入るということを知らなかったのだ。
昨日まで感じていた怒りや後悔も、さっきまで感じていた寂しさや悔しさも、みんな吹っ飛んでしまった。

目が合った。
あいつが、チーターの耳がついた顔で、こちらを見ている。チーターの手足をぶらぶらさせながら、こちらを見ている。そして、チーターの尻尾を振り、
笑った。
いつもレースが終わった後に、勝ち負けに関係無くいい勝負が出来たときに見せる最高の顔で、笑った。

もう、どうでもよくなった。あいつのその笑顔を見て、そう、思った。
彼も、笑った。声をあげて、大いに笑った。
そして、蒼い空の下、二人は手を合わせた。ぱちんと小気味いい音が、滝の音に負けないくらいの大きさで、二人の周りに響いた。

終わり。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第2号
ページ番号
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この作品について
タイトル
チャオノ日常。
作者
ひろりん
初回掲載
週刊チャオ第2号