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とある、チャオガーデンの一日です。
1匹のチャオが、体を動かそうと水場まで歩いてきました。
しかし、困ったことが起こりました。
水面には、自分と酷似している、チャオの姿があったのです。
水面に沿って歩くと、水に写っているチャオも歩きます。
チャオがそのまでジャンプをすると、水に写っているチャオもジャンプをするのです。
チャオを見に来ていた博士は、その姿に興味を示しました。
「チャオには好奇心がある」
そう思った博士は、端の方に座り込み、その様子を手に持っているスケッチブックに書き記していくことにしました。
次に、チャオは水面ぎりぎりまで歩き、その場にほふくをするかのような格好になりました。
出来るだけ身を屈めると、水面にはチャオの頭が少しだけ写りました。
何を思ったのか、チャオは立ち上がり、木の実を持ち出しました。
水場の近くまでそれを持って歩いていくと、水面のチャオも木の実を持ってそこに立っていました。
チャオは、木の実を試しにかじってみます。
すると、水面のチャオも木の実をかじるのです。
その歯形、木の実から出る汁。全てが、今かじったばかりの木の実と酷似しているのです。
元々お腹も空いていませんし、自分と同じ行動をするそのチャオに愛想を尽かし、木の実を投げつけました。
するとどうでしょうか。水面のチャオも木の実を投げました。
ですが、木の実はチャオの方へは飛びません。
自分の足元の方へ、飛んでくるのです。
チャオは慌てて後ろに仰け反りました。
ケンカ早い自分を恨み、握手をしようと水面へと再び赴きました。
手を水面のチャオの手へ触れさせた瞬間、冷たい液体のように触れた感触があったのです。
慌てて水から手を抜き、自分の手にまだ液体が付いていることを確認すると、思いっきり泣きじゃくりました。
博士はこの結果を研究室に持ち帰り、チャオの思考について研究員たちと話し合いました。
「物が水面に写ることを常識で考えていない」
「人間以外の動物に、光の本質的性質が理解できるはずが無い」
様々な論が飛び交い、最終的にはこのような結果に落ち着きました。
「チャオが何歳かで変わってくる」
再び、チャオに対する調査が行われました。
チャオガーデンを管理している団体を探し出し、その本部へと足を踏み入れました。
「何のご用件でしょうか」
博士は、手に持っている資料とスケッチブックを確認しました。
「チャオに関する質問をと」
そういわれると、窓口の係員は受話器を取り出し、ボタンを入力します。
軽い防音になっているので、何を言っているかが聞き取り難いのです。
関係ないだろうとそのまま数分間待つと、奥から人が出てきました。
その人はスケッチブックをぱらぱらとめくり、資料にも目を通すと、おもむろに言いました。
「どうぞ、こちらへ」
案内されるがまま、博士は後ろを歩いていきました。
地下へ地下へと連れられていくと、一つの部屋がそこにありました。
周囲は防音素材で囲われており、壁には鏡が一つありました。
「こちらのイスにお座りください」
部屋の真ん中にぽつんと置いてあるそのイスに腰掛けると、案内してくれた人はそそくさと部屋を後にしました。
「聞こえますか」
部屋の隅につけてあるスピーカーから、人の声がしました。
「ええ、聞こえます」
そういうと、次にスケッチブックと資料を足元に置くように指示が行きました。
「これからチャオの思考感覚へといざないます。どうぞ、体を楽にして音波を聞いてください」
そうは言われるが、博士は体に力を入れてしまいます。
突然この部屋に連れられるわけですから。当然の結果です。
しばらくすると、チャオの声と同時に高デシベルの音が流れ始めました。
チャオの声にうっとりしながらも、神経を逆撫でするようなその高い音に、吐き気を訴えました。
ですが、その訴えも数分で止まります。
博士への洗脳が、ものの見事に成功してしまっているからです。