第五話 ページ5
まどろみから覚めたばかりの体を無理やり起き上がらせる。時刻を確認すると、すでに午後五時を回っていた。
右手に掴んでいる貯金箱に目をやる。僕は二年前、正せる範囲でボディの歪みを正し、学校へ持っていった。
ガムテープはべたべた張り付き、割り箸は完全に固定されている——つまり、今手に持つこの状態で。当時は今よりほんの少し綺麗だったけど。
そしてこの貯金箱は、教室の後ろに僅かな期間展示された後、我が家に帰ってくることになるのだが……。
当時のカトレアがしまえ隠せと喚いたので、僕が今日久しぶりに引っ張り出すまでクローゼットに押し込められていたのだ。
カトレア曰く、「恥ずかしい」だそうだ。
「ワカバ」
開けっ放しの入り口に、カトレアが居た。
「なに?」
「ココア飲みたい。作れ」
そう言って、背中を向けてとことこ歩いていくカトレア。僕が握っている物には気づかなかったみたいだ。
僕は辺りに散乱している物を再びダンボールに放り込み、クローゼットの奥へ押し込む。またしばらく、あの貯金箱にはお目にかかれないだろう。
部屋を片付け終えた僕は、部屋を出て階段を下りていった。一階では、カトレアが僕を待ち望んでいるはずだ。
「はい」
「……ありがと」
アイスココアの入ったコップを右手でカトレアに手渡す。左手には、僕の分のココアを持って。
カトレアは、両手で受け取ったコップを傾けて、ちびちびとココアを飲んでいる。
その様子を眺めていて、僕はふと訊いてみたくなった。
「カトレアって、ココア好きだよね」
「うん」
「なんで?」
「知るか」
ごもっともだ。僕だって好きな物を尋ねられて、「なぜ好きなのか」と訊かれても、せいぜい「好きだから」と答えるしかないと思う。
でも僕は、一つの疑念を完全に振り払うことが出来ないでいる。
カトレアがココア好きなのは、僕が原因なんじゃないか、と。
——まさかね。
コップを右手に持ち替えて、カトレアに倣ってちびちびとココアを飲む。
甘く冷たい喉越しを堪能しながら僕は、今年の自由研究は何をしようかと考えていた。