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第五話 ~雨降って地固まる~
ジィジィと、絶えることなく奏でられる蝉の鳴き声をBGM代わりにして、僕は冷房の効いた二階の自室にて、普段滅多に開ける事の無い、不要物収納用物置と化しているクローゼットの中を漁っていた。
懐かしい記憶を呼び起こす物、見ても何も思い出せない物、失くしたと思っていた物。様々なものを久し振りに引っ張り出す。
初夏の日差しが部屋に差し込む昼下がり、僕が埃に塗(まみ)れて空き巣のような行動をしている背景には、夏休みにおける強敵が関係している。
自由研究、という名の強敵が。
夏休みに突入し、今年の自由研究の課題として何を登校日に提出しようかと考えていたら、ふと、以前の研究結果……つまり、過去三年間の戦績を顧みたい衝動に駆られたのだ。
廃棄した覚えはないし、捨てられないものは大体ここにしまい込んでいる筈だ。
あやふやな記憶を頼りに、暗がりに顔を突っ込む。
今年の研究テーマの決定のための参考になるような物が見つからないか、という淡い期待も同時に抱いて。
「あ、あった」
クローゼットの奥に佇んでいたダンボールを引っ張り出し、さらにそのダンボールを文字通りひっくり返す。
中から出てきたのは物の一つに、貯金箱があった。もっとも、一見で貯金箱だと見抜ける者は存在しないであろうが。
牛乳パックを加工して、色つきセロハンで装飾し、割り箸を突き刺して腕のように見せかけた、ロボットを模した自作貯金箱。
これは僕が二年前、つまり小学二年生のときに提出した自由研究の成果だ。
貯金箱を手にとってみる。
あちらこちらにぐにゃぐにゃと折り目がついてしまっていて、汚れてヨタヨタになってしまった貯金箱。
当初は、硬貨を頭の投入口に入れてやると腕代わりの割り箸が跳ね上がるというギミックを搭載していたのだが、もはや完全に機能していない。
ふらふらと、今にも取れそうな割り箸を、べたべたと貼り付けられたガムテープがかろうじて繋ぎ止めている。
——と、このように満身創痍の貯金箱であるが、実は提出当時からこんな状態だった。
二年という時間経過によりさらに悪化した感は否めないが、割り箸ギミック故障状態のまま学校に持っていったのを覚えている。
何故そんな状態で提出したのか、それについては一応理由がある。
それは、理由であると同時に僕にとって大切な思い出でもあるのだが、今は、記憶の泉で安らいでいる場合ではない。
「結局、何にしよう」
貯金箱を右手に掴んだまま、仰向けに寝転んで一言呟く。
決まらぬ、今年の研究テーマ。今年は何をしようか。
ぼんやりと中空を彷徨っていた視線は、そのうち瞼によって生み出された闇の中に紛れ込んだ。
クーラーの稼動音のみが、静寂の中に響き渡る。変化無く聴こえ続けるリズムが、僕の感覚を麻痺させていく。
次第に僕の意識は、まどろみの中に溶けて消えた。
………
……
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