第三話 ページ6
一時間程で帰ってくると、すでに早苗達は帰っていた。カトレア曰く、面白い話をしてくれた、だそうだ。
その後は、カトレアがサナエから何を聞いたのか、気にしながら過ごす羽目になった。
訊きたいような聞きたくないような、複雑な気持ちでカトレアの顔色を伺っていると、たまに悪戯っぽい笑顔(!)で僕を見つめてくる。
とてもではないが、僕からは聞き出せなかった。
そして、ホワイトクリスマスは平穏に時間を刻んでいき、夜になる――。
「いいか、私が寝てたら絶対に起こすんだぞ! 別に、サンタさんなんて見たくないんだからな! ただ今日は起きていたいだけなんだからな!」
「はいはい」
暗い部屋の中、僕の隣で毛布にすっぽり包まって何度も念を押すカトレア。サンタさんがやってくる様を一目見てみたいらしいが、恐らくそれは叶わないだろう。
サンタクロースという存在の信憑性的に考えても、カトレアの睡眠欲の限界的に考えても。
案の定、しばらくするとすやすやと寝息が聞こえてきた。必ず起こせと念を押されていたが、光の無い部屋の中ぼんやりと見える幸せそうな寝顔をみると、それを崩す気にはなれない。
明日の朝、怒鳴られよう。そう決めた僕は、カトレアを起こさないように布団から抜け出る。
そして、昼間に出かけた際に調達してきた物をカトレアの枕元に置く。僕からのクリスマスプレゼントだ。
そしてまたカトレアを起こさないように、静かに布団を被る。目を閉じて、昼間早苗に言われたこと思い起こす。
いつも一緒に居て、カトレアの成長は全部見守ってきたと想っていたけれど、そんなことは無かったようだ。
カトレアは、僕の見ているときでも見ていないときでも、目に見える部分も見えない部分も、成長を続けている。僕が思っている以上に。
その成長に気づいてあげられるよう、僕も成長しなければならない……。そんなことをぼんやり考えながら、僕の意識は闇に溶けていった。
そして、翌朝である。
「何で起こさなかった! あれほど言っただろ! バカ! バカワカバ!」
「ごめんね、僕の方が先に寝ちゃったみたい」
めでたく、昨夜シミュレートしたとおりの展開となった。
寝てしまったのがよほど悔しいらしく、毛布を掴んでばたばた振り回す。埃が立つから、早いところやめさせねば。
「ほらカトレア、枕元に何か置いてあるよ」
多少強引に、カトレアの注意を枕元へ向けさせる。
そこには、カトレアの頭に合わせて、頭の先が二つに枝分かれしたクリーム色の帽子が一つ。――サイズは、やや大きめ。
「よかったね、きっとサンタさんだよ」
「……」
カトレアは帽子を手に取り、じろじろとねめつける。
……気に入らなかったかな。
「ワカバ」
「な、なに?」
「値札がついてる」
「そ、そう。値札が……えっ」
帽子をねめつけていた目を、そのまま僕に向けるカトレア。えーっと。
「サンタさんも、配るプレゼントは地道に買い集めていたんだね」
「……」
「……ごめん」
ごまかしきれないと踏んで、素直に謝る。
カトレアは帽子から値札を取り除くと、また声を荒げて怒鳴る。
「ワカバは何事も詰めが甘すぎ! こんなお約束今時誰もやらかさない! 死ね! 雪を喉に詰まらせて死ね! ありがとう!」
カトレアは怒鳴り終えると、帽子を持って部屋を飛び出した。
残された僕は、早速反省会だ。カトレアの言うとおり、どうも詰めが甘かったみたいだ。
でもまぁ、最後の一言が聞けたことで結果オーライと言う事にしたいのだけれど、どうだろう。